いらない子にも、チョコをちょーだい?

一つ年下の財前光はどこか不思議な男だった。
顔良し成績良し頭良し、だけど人あたりや性格は悪い部類に入る。それに口も悪い。
だが何故か彼の周りには自然と人の輪が出来ていて、生意気な態度ではあったが先輩にも可愛がられていた。
それは謙也も同じで、何だコイツ、と思う事も多かったが根本はイイ奴である事を知っていた為に可愛がっていた。
そんな彼の秘密を知ったのは、何気ない行動がキッカケであった。

「光甘いもん好きやろ?これやるわ」
朝練の後、着替えて荷物を片付けていた時にカバンから出てきたチョコレートを二つ、隣のロッカーの前で着替えていた光に渡す。
前日クラスメイトの女子に貰ったもので入れっぱなしにしていたものだったが溶ける事もなく綺麗なままだ。
謙也の渡すそれを光は酷く驚いた表情で受け取る。
光にお菓子をあげる事など特に珍しい事ではないのにと首を傾げると、一瞬ドキリとさせられるような笑いを浮かべて一つの包みを開け始めた。
そして口にほうり込むとどこか意味深な笑みを浮かべた。
「な…何?」
「まさか謙也さんに貰う思いませんでしたわ」
「え?」
何を、と尋ねようとするが、光はさっさと荷物をまとめると、ほな昼休み待ってますわーと残して部室を出て行ってしまった。
一体何の話だ、と訳の解らない謙也の肩を叩く者がいた。
振り返るとそこには白石が食えない表情で立っている。
「な、何?」
「お前、知らんと財前にチョコやったん?」
「何が?光何言うとったん?」
白石はふぅん、と唇を歪め嫌な笑みを浮かべる。
彼がこの笑顔を見せるときはロクな事がない。
謙也は危険を感じ一瞬身を引くが、ほな昼休みに地下の物理室行ってみ、と耳元で囁かれた。
思わせぶりな光の笑みと白石の態度に好奇心を刺激されてしまい、謙也は危険を感じつつも言われた物理室へと向かった。
地下にある教室はほとんど人が近付く事はなく、昼休みだというのにひっそりと静まり返っている。
こんなところに呼び出して一体何だというのだ、と思いつつ教室の中に入る。
鍵は開いていたが中に光がいる様子はない。
時間を間違えたのだろうかと思いながら物理室から続く準備室の中から物音がした。
ここに居るのだろうかとドアを開けようとすると、中から光が出てくる。
「あ、謙也さん」
いらっしゃい、とまるで自分の部屋に迎え入れる言葉をかけられ、謙也は戸惑いながらも手を挙げ軽い調子で挨拶する。
「閉めてや、後ろ」
「え、ああ、うん」
開けっ放しになっていた準備室と物理室を繋ぐドアを閉めると、鍵も、と注文をつけられる。
不思議に思いながらも鍵をかけると、途端に後ろから光が腰に抱きついてきた。
そして服の裾から入れられる手に驚き飛び上がる
「なっ!何!?いきなりなんなん!?」
光の突然の行動に驚き慌てふためく謙也に、光はそれ以上に驚きの表情を見せる。
「なっ…なっ…」
「え?解って来たんちゃうん?」
「な、何が…?」
キョトンと目を白黒させる謙也に、光は目に見えてがっかりとした。
「なぁーんや。俺結構楽しみにしとったのに」
「せやから何がやねん!意味解らんわ!」
全く噛み合わない会話にイライラしながら怒鳴り付けてしまうが光は意に介さず掌をひらひらと追い返すような仕種を見せる。
「ほなもう用はないっスわ。早よ教室戻って授業受けてきぃ」
「何やねんほんま!意味解らんし!」
謙也は光と白石の言葉に翻弄された事に些か苛立ちながら地階から上がる階段を昇っていると、白石が下りてくるのが見え、足を止めた。
「あれ?もう終わったん?なーんや、覗いたろ思たのに」
「せやから何をやねん!!お前ら何言いたいねん!」
イライラと頭を掻きながら言う謙也の様子に、白石も驚きの表情を見せた。
「何や、何も教えてくれんかったん?財前」
「呼び付けといて教室帰れ言われたわ」
「ふーん…知りたい?財前が何言いたかったか」
「え…?」
また見せられる白石の悪い顔に、危機感を覚えるが一度芽生えた好奇心は簡単に摘み取る事は出来ない。
謙也は戸惑いながらも頷いた。
「ほなついてきぃや。見したるわ」
白石はポケットの中から小さなチョコレートを二つ取り出し、ニッと笑みを見せた。
そして謙也をもう一度物理準備室に入るように言うとそこにあるマジックミラーで見ているように言った。
訝りながらも謙也は言われた通りに普段教師が準備室から生徒の様子を見る事に使用されているマジックミラーから物理室を覗いた。
そこにはまだ光がいて、退屈そうに携帯をいじっている。
「財前」
そこへ白石が廊下から室内に入ってくる。
すぐに一瞬鏡の方を見るが、光へと視線を移した。
鏡越しに目が合い、ドキッとさせられたが何事もなかったかのように白石は光に向けチョコの包みを差し出した。
「謙也にフラれたんやろ?俺が相手したんで?」
「ほんまに?あー…けど部長結構しつこいからなぁ…部活出れんようなっても怒らんといてや」
「まあ考えといたるわ」
光はうわぁ、と嫌そうな顔をしながらもどこか浮かれた様子でチョコを口に含み、そのまま白石の首に腕をかけると深く口づけ始めた。
「―――っっっ!!」
そのショッキングな光景に思わず叫び声を上げそうになり、一瞬早く自分で自分の口を塞ぐ事が出来た。
鏡の向こうに見える光景が現実だとは考えられない。
考えたくない。
謙也は手で口を塞いだまま鏡から背を向けるが、隣の部屋からは遠慮なく光の発する声が漏れてくる。
「んっ…あっ!部長っ…!」
時間が進むにつれ、どんどんと派手になっていく光の声に触発され、つい覗いてしまった。
その先では制服を半分脱がされた状態の光が白石の体に縋り付き、恍惚とした表情を見せている。
何をしているのだ、何が起きているのだ、と混乱しながらも目を離すことが出来ず、親友に組み敷かれ貫かれ、喘ぎを上げる後輩の姿を最後まで見てしまった。
謙也は食い入るように見ていたが、二人の行為の終わりと同時に腰が抜けたように床にへたりこんだ。
しばらくは何かを話していたようだが、どちらか一人が出ていく音がした。
それからすぐに準備室のドアが開き、中に入ってきたのはいつも以上の色気と艶を纏った白石だった。
「見とったか?…まあ見てたからそうなってんか」
呑気な笑い声を上げ、立ち上がるように言い謙也に手を貸すが、謙也はそれを跳ねつけた。
「……何やねん、今の…」
「見た通りやん?」
「お前ら…付き合うとんのか?」
「ははっ!まーさか。財前なぁ、誰とでもあんな事しとんやで」
何でもない事のように衝撃的な事を言われ、謙也は開いた口が塞がらない。
「財前にチョコ二つあげるってのは、今日俺とせぇへん?って事。で、財前がその場でそのうちの一つ食うたらOK合図」
「嘘やろ…」
「嘘ちゃうよ。せやからお前もそうや思って誘われてたんやん」
だが裏を知ればこれまで解らなかった先刻までの会話が全て辻褄が合う。
謙也はまだ信じられないと床に視線を落としているが、白石は淡々と続ける。
「まあそういうわけや。財前とヤりたいんやったらチョコ二つ持ってここ来る事やな。昼休みとかたいがいここおるみたいやしな」
ほな俺授業行くからお前も遅れなや、と残して白石は出ていってしまった。
だが謙也は先刻のショックから抜け出せず、午後の授業が始まってからも頭の中で繰り返し再生される情事が消すことが出来ずにいた。

【終】

何かすみませんすみまs
誕生日プレゼントに書いたものですが、こちらで公開しました。

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