ヒート

*赤柳+謙光お好み焼きWデートです
*何で?という質問は必要ないです
*謙也の叫びは平均的な大阪人の叫び


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大きな鉄板を有する個室にそれぞれのパートナーと隣り合わせに座り、壁に大きく書かれたメニューを眺める。
そして柳の発した言葉に謙也と光は動きを止めた。
「で、何枚頼むんだ?」
「は?」
「は?」
眉を顰め、表情を変える二人に何かおかしな事を言っただろうかと柳の方が訝る。
「な…何だ…」
「何枚て…一人一枚に決まっとるがな」
「…そうなのか?」
「っちゅーか一人一枚が常識やろ。何、自分らちょっと頼んで分け分けして食うん?」
「…そんなん好きなん食えんやん。謙也君のなんか脂っこーて食えるかゆーねん…」
好き嫌いの多い光が嫌そうに顔を歪める。
「五月蝿いわ。俺ぶた玉にキムチとすじコンにしょーっと」
「ほな俺いか玉に桜エビとこんにゃくとちくわにしよ」
メニューから目を離し、お前らもさっさと決めろとばかりにじっと眺める謙也と光の視線が痛い。
柳は居心地悪く目を逸らし、メニューを見ている赤也に視線を向ける。
「赤也、お前はどうする?」
「うーん…ミックス焼きがいいっス。全部入ってるし」
「では俺もそうしよう」
聞くや否や、謙也は大声で通路を歩く店員を呼び止めた。
部屋に備え付けの内線があるのに、という柳の意見も笑い飛ばす。
「そんなん、こっちのが早いやん」
「恥ずかしくないんっスか?」
「全然」
「俺はよぉ出来んけど謙也君は普通ですよね」
テレビの中にいる大阪人など、局によって作り込まれたものだと思っていたが実際お目にかかるとそれがいかにノンフィクションであったかがよく解る。
柳は面白い、と次々に頭の中のデータを書き換える。
気質が"いらち"の大阪らしく、注文したものはすぐにやってきた。
大阪組の見よう見真似で何とか鉄板に生地を広げようとするが、なかなか上手くいかないと苦戦する。
赤也はそんな柳の様子を眺めながら、何でもそつなく器用にこなす柳がもたもたとしている姿が可愛いなあと破顔した。
「何ニヤニヤしとんねん。気持ち悪」
「何だとてめぇ!!」
「止めないか赤也」
光の毒に過敏に反応する赤也を柳はすかさず止める。
謙也も光の頭を小突いて窘めた。
「光。言葉に気ぃつけぇて白石にいっつも怒られとるやろ」
「はーい」
「…えらい素直やんけ……どないしてん」
「お客さんの前やしカッコつけたいんやろなー思てんやないっスか。あー先輩思いでええ後輩やわー」
「そんないらん気回すなや!!」
「けどめっちゃ見られてんで、謙也君」
「は?」
光の視線の先には、データを取るように二人のやり取りをじっと見ている柳がいる。
謙也はそれ以上何も言えず、手の中にあった椀にスプーンを突っ込んで生地を混ぜ始めた。
「何っスかその茶色いの……」
白い生地に投入される得体の知れないどろどろの固体を見て赤也が顔を歪める。
「何や、自分すじコン知らんの?牛すじとこんにゃく味噌煮にしたやつやん。どて焼き言うん?あれ細こぉ刻んだやつ。お好み入れたらめっちゃ美味いねんで」
「へぇー…」
「俺それ好かん……濃ーすぎてよお食えんわ…謙也君のおばちゃんたいたんはめっちゃ好きやけど、どて焼き」
「やんなあ?俺もオカンのが世界一や思うわ。おでんのんもめっちゃ好き」
「俺も好きっスわ」
よく解らない関西の食文化と言葉に関東組の頭の上に大きな?マークが飛ぶ。
そういえば二人はトッピングを何種類も追加で入れていた。
なるほど、そうした自分好みの味があるのかと二人は学んだ。

熱い鉄板から湯気が上がり、いい香りが部屋に充満する。
赤也は注文したものと一緒に運ばれてきた大きなこてを手にした。
「もうそろそろいいっスかね?」
両手にこてを持ち、勢いよくひっくり返すがまだ焼きが足りなかったのか生地が崩れてしまった。
「まだ早いやろ」
「えぇっ!!ひっくり返す前に言ってくださいよ!!」
タイミングの悪い謙也の助言に半泣きになりながら赤也が訴える。
「自分のは自分で面倒見な」
「そんなの解んねえし!!」
「しゃーないなあ…」
謙也は赤也からこてを受け取ると素早く成形し直し、元の綺麗な円形にさせた。
「すげー」
「俺のんは触んなや。こっちまでぐちゃぐちゃにされたらたまらんわ」
「るっせー!!」
また喧嘩を始めようとする二年生を仲裁して、謙也は再び個室の前を通る店員を大声で呼び止め追加注文をした。
「飯大盛りと…光は?おにぎりか?」
「あ、はい」
「おにぎりとー…二人は?他何か食う?」
「あ…いや……」
そんな唐突に聞かれても、と困惑する関東組を他所に、謙也が勝手に注文を進める。
「豚モダン一つと、あ、あと食後に小倉抹茶アイス。食うやんな?」
「はいはい」
いつもの事なのか、勝手に決めている謙也など意に介さず光は自分のお好み焼きの焼き具合を見ている。
「俺は柚子シャーベット。お前らは何にする?」
「食後の注文を今するのか?」
「今から言うといたら食い終わってすぐ出てくるやん」
そんな矢継ぎ早に言われても、と対応しきれない柳に、赤也が慌ててメニューに目をやった。
「えっと、じゃあ俺はチョコアイスと、この人には財前と同じやつお願いします」
「あーあと、とん平」
光の注文を最後に、店員は笑顔で部屋を出て行く。
メニューを決めてから店員を呼ぶのではなく、店員が来てからメニューを見て注文をする。
全く信じられない光景だ、ついていけないと柳は頭を抱えた。
しかし店員も慣れているのか違う口から次々言われる脈絡のない注文を端末に入力していた。
赤也の短気には慣れているが、これは尋常ではない速さで時間が流れている。
なるほど、これがいらちかと柳はようやく納得がいった。
せっかちや短気というわけではなく、時間が流れるのが早いのだなと体感した。

赤也の崩れてしまったお好み焼きも綺麗に修復され、ソースやマヨネーズ、かつお節が乗せられた。
食べる段階になり、再び柳は手を止めた。
確か大阪の人間はこてで食べなければ怒るんじゃなかったか、と。
しかしこんなもので本当に食べられるのかと取り皿と一緒に置かれた小さなこてをじっと見つめる。
「何やってん。早よ食わな焦げんで」
「あ…ああ……え?」
謙也を見れば普通に切り分けたお好み焼きを箸で食べている。
「何?ああ、別にこてで食わんでええで。食いにくいやろ?」
柳が自分の手元とこてを見比べているのに気付き、謙也は割り箸を勧めた。
よく見れば光も普通に箸で食べている。
「家では普通に箸で食うてますしねえ」
「俺家でこてで食お思たらオカンにホットプレートあかんようなるって殴られたど?」
「ですよね。個人のちいこい店ならともかく、ここみたいな雑誌にも載ってるようなとこ普通に箸置いてますて」
「そうか…」
ようやく柳が手をつけ始めた頃には、すでに大阪組の二人は半分以上食べていた。
「あーけど久々に鉄板のん食うたらやっぱちゃうわーめっちゃ美味い」
「ほんま、家ではこうはいかんよな」
食べながら喋るのは行儀が悪いと思うが、器用に食べる事も喋る事も疎かにせず楽しげに話しながら食事をする二人に柳は感心すらした。
「ちょぉ待て!!」
「な…何だ」
「おま…何やってんねん」
切り分けようとお好み焼きに大きなこてを当てた柳が謙也の大きな声に動きを止める。
「お好みはサイコロ切りやろ!!ピザ切りは邪道や!!」
ぷりぷりと怒りながら謙也は取り上げたこてで四角く一口大に切り分けた。
いい加減なのか、妙なこだわりがあるのか。
早くに順応して楽しげな赤也とは裏腹に、柳はよく解らない大阪ルールに困惑しきりのまま謙也の指南を受け食べ進めていくのだった。

お好み焼きはソウルフードやけど、個々に変なルールが多い気がする。
そんで謙也は俺ルールに五月蝿そうなイメージ。
我関せずな光と、それを常識と素直に聞いちゃった赤也と、順応しきれない蓮二さん。
そんなWデートIN某お好み焼き屋さん。
『何枚焼くの?』← 実際これ聞かれた瞬間、物凄い地域ギャップを感じた。
一人一枚が常識なのは大阪だけなのか!!と。
お好み焼きにおいてお好みなのは具までで、切り方はお好みに入ってないので気を付けてね。
ピザ切りは邪道!ピザ切りは邪道!

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