俺が謙也さんを好きな理由

よく言われる言葉。
初対面の人や、親しくない人からは必ず言われるのだ。
恐々と、こちらの様子を伺うように、必ず。
「怒ってる…?」
と。
元々の無表情とキツイ目付き、それに加えて言いたい事をそのまま口に出してしまう性格も災いしているといえる。
それなのに、顔を見る人は皆言うのだ。
機嫌が悪いのか、怒っているのか、と。
そう問われる度少なからず傷付いている。
確かに感情の起伏はほとんどなくて無表情だからそう見えないかもしれないが、別に怒ってはいないのに。
むしろ機嫌がいい時だってある。
いや、そもそも怒っている事の方が少ないと言える。
感情の起伏が少ないという事は、つまり楽しいや嬉しいというテンションの上がるものとは逆方向にテンションの上がる"怒る"という感情だってないのだから。
ただそれも表に出ないというだけで、ちゃんと心の中では色々と考えているのだ。
それをただ一言、怒ってる?という微妙なものでひと括りにされるのは頂けない。
俺は人形でもロボットでもない、人間なのだから感情だって備わっているのだから。

でもそれも最近は気にならなくなってきている。
俺のほとんど変わらない表情を読んでくれる、稀有な存在が現れたからだ。

今日もまた二年生の平部員に言われてしまった。
二年生の指導を部長に任されて、いつもの調子で淡々と進めていたのだが言われてしまった。
「…財前、怒ってる…?」
確かに先程から同じ事を何度も言わされているが、相手に理解力がない事は十分に解っているのだから今更怒ったりはしない。
「いや…別に怒ってへんし…」
そうは言っても相手は戦々恐々状態。
このままでは教える態勢が整わないと思っていると、いつもの助け舟がやってきた。
「何やー何揉めてんやー」
「謙也さん…」
ダブルスでペアを組んでいるこの人は、いつもこうして絶妙のタイミングでやってくる。
それが犬っぽいなあと思っていると、謙也さんはいつもの笑顔で他の二年生に事情を尋ねている。
「何?こいつ別に怒ってへんやん。むしろ機嫌ええぐらいやで、白石に頼ってもろて嬉しいって感じやし」
「ちょっ…何言うてんっスか!!」
全部当たっている。
当たっているだけに恥ずかしい為必死に口を塞ごうと飛び掛るがひらりとかわされてしまった。
そして仲良ぅせぇよーと言葉を残し自分の練習へと戻っていった。
間に入ってくれたのが後輩人気の高い謙也さんだったから、その後はスムーズに教える事ができた。
そして部活が終わって後片付けをしていると、どこからともなくまた謙也さんがやってきた。
「お疲れさん、財前」
「…っス…」
頭を下げてネットを片付ける作業を続けていると、何も言わず手伝ってくれるようだ。
「せやけどなーんで皆わからんねやろなぁ…」
「…何がっスか?」
「すぐ皆言うやん?怒ってんかーって。見た解んのにな。結構解りやすいし、自分」
「…わかりやすい?」
それは初めて言われた。
親にすらお前の考えている事が解らないと言われるというのに。
謙也さんの言っている意味が解らずポカンとしていると、不思議そうな顔をされてしまった。
「何?めっちゃ解るで、俺。財前考えてる事とか怒ってんかとか喜んでんやとか…っていうか怒ってる事ほとんどないやろ?」
ズバリと言い当てられてしまい、思わず頷いてしまった。
すると謙也さんは嬉しそうに笑った。
「やんな。ほら、めっちゃ解るやん」
「…そうっスね」
恥ずかしい。でも嬉しい。
もう誰に何を言われても構わない気になってきた。
この人がこうして俺の事を解ってくれているのなら。

怒ってる? は、千葉がよく言われる言葉です。
残念。外れ。 怒らないよ、ほとんど。
怒ってるようにヽ(#`皿´)ノこうなってる時はテンション上がってるだけです。
光もそのタイプ。

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