シークレットマジック

明日はいよいよ地区大会の一回戦かと、枕元に置いたカレンダーを眺めて思っていると唐突に病室の扉が開いた。
「おう」
「……やあ」
入ってきたのは仁王で、いつもの制服姿ではなく何故かユニフォーム姿だった。
何故か、と思ったが今は部活の時間なので何の不思議もないのだが、何故ここにいるのだという疑問も先立つ。
「真田に叱られでもしたか?」
「いや、新作見てもらお思っての」
新作と言われて思いつくのは一つだ。
仁王は時折病室でクロースアップマジックを披露してくれていて、それを楽しみにしているのだ。
だが今の時間はと思い直す。
「練習中だろう?」
「ロードワークの途中で寄った」
学校から病院は走って来れる範囲ではあるが、あの五月蝿い副部長の目を掻い潜りやって来るとは無茶をしたものだと幸村は思わず苦笑を漏らした。
だがこうして来てくれる事は嬉しい。
仁王が勝手知ったる調子でベッドサイドにあるテレビ台の引き出しからトランプを出し、椅子に座って器用に刳る様子を眺めた。
「明日から大会だろう?調子はどうだ?」
「まあまあって感じかの。目に見えて張り切っとるんは真田だけやが、参謀もちょっといつもと雰囲気違って見えた」
「そう……蓮二一人で頑張りすぎないようにさせないとな。あいつすぐ一人で頑張ろうとするから……ストレスで参っちゃわないようにしてあげないとね。あ、真田はそのままでいいよ」
その方がよく赤也も言う事を聞きそうだと言えば仁王の口元からふっと笑みが零れた。
「ほい。この中から一枚選んで」
綺麗に扇形に広げられたトランプの中から一枚を選び、仁王の指示通りに進めていく。
一体どんな風に驚かせてくれるのだろうとわくわくしながら手先を眺めていると、仁王のポケットの中から携帯の震える音が聞こえた。
「何じゃ……もう見つかってしもうたか」
忌々しそうにディスプレイを見た後、仁王の口の形が真田、と示される。
通話ボタンを押すと同時に流れ出てくる怒鳴り声に幸村も不機嫌に顔を歪ませた。
電話口に適当な言葉を返している仁王から携帯を取り上げるとなるべく平坦な声で五月蝿いと言ってみる。
何故そこに幸村が、と激しく動揺する真田に対し、すぐに追い返すから今は邪魔をするなと言い放つと一方的に通話を終わらせ電源を落とした。
「さ、邪魔者は消えたよ?続き、見せてくれ」
このような場所にいたところで力関係は絶対で、部活に戻ったところで仁王は大したお咎めもなく済む事だろう。
今の話が柳の耳に入れば尚更だ。
そう思い、再び器用に動き始める仁王の指先に意識を集中させた。


仁王は幸村様を退屈させない為に必死にネタ集めしているよってお話です。

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