赤也視点のRememberの一部。
赤也はとってもつまんねぇんだよ。
俺だけが知ってたかったのに!!と。
でもそんな独り占めを許す幸村様ではございませんよ。
うちの蓮二は皆の蓮二ですから。
La Familia 78.イメージダウン
折角スクールが休みになった日曜日。
柳さん誘ってどっか遊びに行こうって思ってたのに。
そりゃ丸一日どっか行かせてもらえるなんて考えてなかったけど…
柳さんと一緒なら図書館で勉強とかでもいい、って思ってたのに。思ってたのにー…
この家に来てからすっかり主婦と化してしまった柳さんは張り切って大掃除するんだって言い出した。
頑固で言い出したらきかないし、この人。
それに幸村邸三強…家主の幸村さん、実質あらゆる実権握ってる柳さんに口煩い真田さんがやるっつーんだから
俺たちに拒否権なんて与えられるわけがない。
そんなこんなで大掃除が始まった。
開始から約半時間。
盛大に溜息吐いて階段の手すりを雑巾で拭いて、二往復目。
しゃきっとせんか、って真田さんに拳骨食らってますますやる気がなくなる。
「おい赤也ー」
「はーい!!すぐ行きます!!」
玄関からする仁王さんが俺を呼ぶ声に、これ幸いと持ち場を離れた。
「何っスか?」
「お前これ何じゃ。部屋持ってかんでええんか?」
玄関の靴箱横に置きっぱなしにしてあった段ボール箱。
すっかり忘れていた。
中学時代に使っていた教科書ノート参考書の詰まったそれを。
柳さんが受験対策用の資料を作るから中学時代に使っていた教科書と参考書を持ってこいって言うから、
わざわざ実家まで取りに帰ったのだ。
珍しく小母さんも小父さんも出かけてて、気兼ねなくのんびり荷造りしてたら丁度ねーちゃんが帰って来た。
手伝ってやるっつーから二人で書斎に片付けてあった教科書やノートを段ボールに詰めた。
二箱にもなるそれを二時間かけて持って帰る気にもなれず、宅配で送ったんだった。
届いてそのまま玄関に置きっぱなしにしてたんだ。
俺はとりあえず一つを抱えて玄関脇の和室に持って入った。
中身に興味を持ったのか、もう一つを仁王さんが運んでくれる。
「何じゃ、教科書か」
勝手にガムテープを剥がして中身を見て、落胆の声を上げる。
「何期待してたんっスか…」
「エロ本でも隠してるんか思った」
「んな訳ないっしょ……」
仁王さんの開けた方はねーちゃんが中身を詰めてたから俺も何が入ってあるか解らない。
別に見られて困るようなもんは入ってないと思うけど。
中身はほとんど使った記憶のない教科書に、試験前友達に写させてもらったノートだけのはずだった。
「あれ?―――何っでこれがここにっっ…!!!」
教科書と教科書の間に挟まった安物くさい紙製のアルバム。
これは確か……と表紙を見ただけで思い出した。
俺の尋常ならない様子に仁王さんが反応して素早くそれを取り上げる。
「あっっ!!!見んじゃねぇ!!」
一瞬の差で、あっという間に開かれてしまった。
「何じゃぃこれ!!参謀か?!」
俺は頭を抱えた。
二度と見たくないって本人が言い張って書斎のどっかに隠してしまって、俺ももう何年も見てなかった。
ねーちゃんとお祖母様二人で柳さんを女装させて写真に収めたそれ。
何でここにあるんだ!!
と、考えて可能性は一つ。
ねーちゃんだ。
ねーちゃんが勝手に…たぶん面白がって荷物に勝手に入れたんだ。
こうなる事を予想して。
「何?どうしたの?」
「風呂場にまで声届いてるぞ」
俺たちの騒ぐ声に、廊下の端で食品庫の掃除をしていた幸村さんと風呂掃除してたジャッカルさんが顔を覗かせる。
やっべ…この人らにまで見られたら!!
そう思って仁王さんからアルバムを取り上げようとしたけど、一瞬差で幸村さんが取ってしまった。
その上頭抱えてるうちに、わらわらと皆集まってきた。
最終的には俺を呼びに来た真田さんまでもが頭突き合わせて中を見ている。
「赤也!!サボるな!」ってすっげぇ勢いで怒ってたくせに。
皆して写真の中の美少女見入ってる。
あー何かムカつく。
俺だけが知ってる柳さんの姿だったのに。
「そんな顔するな、赤也。お前ばかりが蓮二を独り占めなんてズルいだろう?」
ムスっとした顔で集団睨んでたら幸村さんに笑顔で言い放たれた。
ムカつく!!けど言い返せねぇ…
…怖いし。
けどよかった。
ある意味ちょっと常識ハズレな人たちだから、女装した柳さん見てイメージ悪くなったりはしなかったみたいで。
まあそうでなくても悪く思わないはずだ。
だってめちゃくちゃ可愛いし。
俺だって最初は女の子だって疑わなかったからな…
ねーちゃんは柳さんおもちゃにしてよく遊んでた。
嫌そうな顔はしてたけど、大人しいもんだから強く嫌がる事はなかって、いつも言いなりだった。
で、言いなりの結果がこれだ。
けどそろそろ止めねぇと柳さんに見つかったらエライ事になる…
「ちょ…そろそろ…」
「何をしている」
「うわぁあああああああ!!!!!」
止めようと畳の上に座り込んだ皆の輪に入った瞬間だった。
廊下の襖が開いて本人がやってきた。
「……それはっっ!!」
柳さんもそれにすぐ気付いたのか持っていた仁王さんに飛びついたが、仁王さんのが動きは勝っていた。
ひょいひょいかわして面白がってまたアルバムを開く。
「いやー可愛いのう参謀」
「赤也!!」
「い゙っっ!!??」
馬鹿にしたような仁王さんの態度に、俺にまで怒りが飛び火したじゃねえか!
とんだとばっちりだ!俺は止めようと思ってたのに!!
「俺は先日お前に何と言って実家に帰した?」
えっと確か……
「え…えーっと…受験対策用の資料を作るから中学時代に使っていた教科書と参考書を持ってこい…?」
「で、何故あれがここにある」
俺だって意味わかんねーのに…説明なんてできるわけねえ!
「そっ…そんな怒らないで下さいよっっ!!ふっ不可抗力だ!!」
「不可抗力?」
「丁度ねーちゃんが帰ってて荷造り手伝ってやるって言ってくれたからっ…
それで知らない間に教科書詰めてた段ボールに入れられてたんっスよ!」
「ほう……」
ひぃいいいい!目!目が開いた…!!
本気で怒ってる証拠だ。
「ほっほんとですってば!俺だってびっくりしたんだから!」
「だからと言って皆に見せて笑いものにする事はないだろう!」
「わっ笑ってないっスよ!」
皆本気で魅入ってたのに。
びくびく次の動きを伺っていたら、今度は真田さんが標的になった。
「だいたい弦一郎まで一緒になって何だ!言っていた場所の掃除は終わったのか?!」
「すっ…すまん…まだ途中だ…」
「まあまあ蓮二…ちょっとした休憩じゃないか」
「………精市」
「それに皆感心して笑ったりなんてしなかったんだよ?こーんなに可愛いのにさ」
「こんな事で感心されても嬉しくない!」
だろうな…
柳さんは隙を見つけて仁王さんからアルバムを取り上げた。
「精市、物置にある壊れた電化製品はどうするんだ?」
「ああ、粗大ゴミの収集を頼もうと思って忘れてただけだから捨ててくれていいよ。
他にもまだ出てくるだろうし年末にでも引き取り業者を呼ぶよ」
今だ!
今しかない。
皆同じ事を思ったのか、死角になったリビング側の襖から逃げようとした。
「解った。……お前達逃げるな!」
が、そんなの見落とす人じゃない。
「今から買出しに行ってくるから帰るまでに掃除を終わらせておけ!いいな!!」
仁王さんは柳生さん犠牲にしようとしてるし丸井さんはジャッカルさんの背中遠慮なく押し出してるし…
俺はそんな四人の影に隠れて難を逃れた。
「返事は?!」
「はいっ!」
「弦一郎もだ!」
「わっ…解ったっ!」
真田さんが叱られるという何とも珍しいものを見てしまった。
「おーい」
嵐が去った後、呆然としていたが幸村さんの声に皆我に返る。
「さっさと掃除しないと。蓮二帰ってくる前に終わらせないと今度はさっきどころじゃないかもよ?」
「そ…そうだな……ほら、行くぞ赤也」
真田さんに背中を押され、再び持ち場に戻った。
他の皆もそれぞれ作業に戻る。
前半と違って皆真面目にやったから、それから一時間もしないうちに終わった。
段ボールをまだ和室に置きっぱなしだった事を思い出して、俺は和室に向かった。
リビング側の襖を開けると玄関の掃除が終わったのか、玄関側から入ってくる仁王さんと鉢合わせる。
「お、何じゃこれ…」
丁度畳の縁に乗るように何かが落ちているのに気付いた仁王さんがしゃがんで拾い上げた。
「…柳蓮二?参謀の名札か?」
「あ!それ…」
「おーいお前ら昼飯チャーハンかチキンライスどっちがいい?」
開けっ放しにしていた襖の向こうから丸井さんも顔を覗かせる。
すぐ仁王さんの手の中にあるそれに気付いて近付いてきた。
「何だよそれ。柳の名前書いてあるじゃん」
「何、どうしたの?」
この人何か楽しそうな雰囲気嗅ぎつけると必ずやってくるんだよな…
丸井さんのすぐ後ろから幸村さんが顔を覗かせた。
「あ、花名刺だ」
「幸ちゃん花名刺って?」
「京都の舞妓さんが渡す名刺だよね。何でそれがここに?」
「初めて会った日に貰ったんっスよ。さっきのアルバムに挟んであったんだけど…取り合った時落としたんっスかね」
「へぇー風流なモン持ってんだなー流石柳」
丸井さん…さすがの使い方間違ってる気がする。が、的は得てる。
あの頃は綺麗だって感動したけど、よくよく考えりゃ小学生は普通こんなの持ってねぇもんな。
兎に角大事なそれを受け取って、ポケットの中に入れっぱなしにしてた財布に挟んだ。
そして段ボール抱えて部屋に戻ろうとすると、幸村さんに肩を叩かれる。
「あ、それ運び終わったら蓮二迎えに行ってきて」
「ぅえ?けどどこに…買物行くっつったってどこ行ったかわかんねぇっスよ」
「買物には行ってないよ。晩御飯の買出し昨日行ってたみたいだし。
勢いで出て行って帰り辛くなってるだろうから迎えにいってやれ。お前なら解るだろ?」
俺なら…と考えて一つの可能性が頭に過ぎる。
もしいるとすればあそこだ。
けどそれがほんとならこんな寒い中…
俺は急いで段ボールを部屋に運ぶと、コートを着てマフラーを巻く。
引き出し閉めようとした時目の入った手袋をポケットに突っ込んで家を飛び出した。
向かう場所は一つ。
こんな時、いつも決まって同じ場所に隠れていた俺。
今日はきっとあの人が隠れているはずだから。