…って事なんです。
泥沼にはしません。……たぶん。
仁王は赤也の事も可愛いので強く出れないのです。
ブン太も真田を認めざるをえないのです。
Wa'Furu【ワーフル】はうちの地元にあるケーキ屋。
甘いものは食えないがここのクラシックショコラが美味くて大好き。
店舗も可愛いんだ。
こっそりブン太のバイト先設定。
厨房の白衣じゃなくてウェイトレスの制服着て欲s(ry
やっぱニオブン絡めたくてこういう展開にしてみた。
この二人がくっつくかどうかはまだ解らんけど。
Resetで仁王がダブルパンチを浴びた翌日のお話でした。
La Familia 72.崩壊
心の壊れる音を初めて聞いた。
背中に走る痛みと激しい耳鳴りの向こう側で、鬼の形相をした赤い目のあいつが俺を睨んでいる。
俺はただいつもの調子で笑って流す事しかできなかった。
縁側のある和室でぼんやりと天井を眺めていた。
ここは玄関から繋がっていて直接入れる唯一の部屋。
午後の授業をサボり、誰も居ない家の中で一昨日の出来事を思い出していた。
「ただいまー」
この時間に誰か帰る事があったか?と思う間もなく、赤い髪が視界に入った。
「んだよお前、帰ってたのか?」
「あー…まぁな」
ブン太は羽織っていたパーカーを脱ぎながら、仰向けに寝る俺の顔を覗き込んだ。
「どうせまたサボったんだろ」
「お前さんこそ、こんな時間にどないしたんじゃ」
「俺はバイト上がり。スクールまで時間あるから一旦戻っただけ」
「あ、そ」
特に気になる続きがありそうにない話を生返事で終わらせる。
何を思ったのか、ブン太は頭頂を合わせるように寝転がった。
しばらくは同じように天井を見つめていたが、不意に口を開く。
「昨日は悪かったな」
「何や急に」
「お前の気持ち丸無視して説教したりして」
「何の話か解らんの」
「すっとぼけんな」
いつもの軽い調子ではない。
真剣な声だ。
顔は見えないが、恐らくは無表情で言っているのだろう。
誤魔化しきれていなかったか、と舌打が漏れそうになるのを堪える。
「……いつ気付いた」
「これってキッカケはねぇよ。何となくそうかなって思ってただけ」
「ふーん…鋭いのぅ」
主語のない話だが通じている。
やはりブン太は気付いていたのだ。
親友すら気付いていない、心の底に溜まった秘めたモノを。
「なぁブン太」
「あ?」
「お前は…辛うないんか?一生届かん思い抱えて一緒に暮らすんは」
一瞬触れた頭が緊張を伝える。
でもそれはすぐに解けた。
「やーっぱお前も気付いてたのか」
「ああ。それで?」
「別に。俺はもう諦めてるし…今はどっちかっつーと家族愛みたいなもんかな」
「諦めんか?」
「しょーがねぇっつーか……敵わねーって思ったから。比べれるもんじゃねぇけどさ…
親とか兄弟に甘えるみたいな感じに接するぐらいしかできねぇよ俺には……」
ブン太が彼を思っている事には最初から気付いていた。
だが彼には思う人がいた。
それは自分にも言える事。
俺の好きな人の隣には、すでに違う奴がいた。
「お前は?」
「俺は…お前みたいに無邪気にじゃれれる様なキャラやないからな……それにまだ気持ちの整理もついとらん」
「それで俺がここで暮らすって言い出した時も便乗しなかったんだな。お前の事だし絶対この波に乗るって思ってたけどよ」
返事はできなかった。
しばらく無言の空気が流れる。
表の通りを走る車の音や庭にやってくる鳥の声だけがしている。
「まさかあいつが選んだんがあんなちんちくりんやとはなー…」
「あーんなオッサンに取られてたなんてよー」
溜息と同時に呟いた言葉に思わず噴き出してしまった。
そう、今の俺に許されるのは出来の悪い男を演じて「しょうがない奴だ」と苦笑いを誘う。
そして世話をかけて手を焼かせる、それだけだ。
自分で距離を測り、ボーダーを決め、それ以上踏み込まないように気をつけていた。
だが先日、風呂上りのあいつがリビングで居眠りをしているのを見ていた時ふと悪戯心が湧き上がった。
別に湯上りのあいつが珍しいわけでもないし、今までに何度も見てきている。
今更邪心が湧き上がる程の事ではない。
ただ一つ違った。
普段きっちりと着られたシャツからでは決して覗かないであろう場所に付けられた赤い痕。
胸元に付けられた、他の奴のモノであるという所有者の証。
瞬間、頭が真っ白になった。
頭では理解していたつもりでも感情がついてこない。
珍しく他に誰もいない静かな室内に、悪魔の囁きが聞こえた。
でもそれには耳を貸さない。
今の関係すらなくなってしまう事は絶対に避けなければ。
壊したくない。
だが心の崩れる音が耳元でする。
これぐらいは許せ、と。
誰に対する懇願だろうと思いながらその膝に頭を乗せた。
これが原因で喧嘩でもすればいい、と思った。
別れさせようなんてセコい考えではない。
自分の位置を確認したかっただけだった。
そして思い知らされた。
彼にとっての俺の存在が、その程度なのだと。
全く相手にされなかった。
ブン太や幸村はあいつに対して怒っていたが、俺を失望させるには充分な対応だった。
柳にしてみれば、犬でも膝に乗せてる程度の事だったのだ。
「怒るにも値せんって事…か」
「あ?何か言ったか?」
「何でもなかよー」
足で反動をつけ、勢いよく起き上がる。
柄にもなくショックを受けていたが、音にして誰かに聞いてもらっただけで少し気持ちが晴れた気がした。
「まだ時間あるんやったらWa'Furu行くか。ケーキ奢ってやるけ」
「はぁ?お前が?!何っか企んでんじゃねーだろうな気持ち悪ぃ!!」
えらい言われようだ。
何の裏も無い。
ただ話を聞いてくれたお礼と、戦友としての杯を交わすだけだ。
共に抱えた、秘めたる思いと闘う者として。