La Familia 62.幸せ

幸せそうな顔が癪に触る。
だからつい意地悪を言ってしまうのだ。

俺はあいつの友達だから。
世界で一番大切な親友だから。

あいつがどれだけ苦しめられたか見てきたから。
そして今、どれだけ幸せなのかを知っているから。

俺はお前が憎くて愛しくて仕方ないんだ。

だってお前はあいつを苦しめれるだけの大きな存在で、それが憎い。
そしてお前はあいつを幸せにできる唯一の存在で、それが最高に愛しい。

俺はあいつを幸せにしてあげる為に手段を選ばないよ。



今日は俺が赤也の家庭教師の日だった。
集中したまま1時間が過ぎ、解答がびっしりと書かれた問題集を受け取り採点を始める。

二人きりで赤也と蓮二の部屋にいるのは、この時間以外にない。
何かを思い出したらしい赤也がふいに聞いてきた。

「あの」
「何?採点ならもうちょっと待って…」
「いや…あの……」
「どうかしたのか?」
何でもハッキリと言いたがる赤也が口篭る。
言い辛い事なのだろうか。
「えっと…そのー…こないだ柳さんに勉強教えてもらった時の話なんですけど…」

赤也は事の次第すべてを話してくれた。
そして蓮二が何を不安がっているのかが解らない、と思い悩んでいるのだ。

思わず吹き出してしまった。
あいつも可愛いところがあるじゃないか、と。

しかしそれを理解できないとは赤也もまだまだだな。

蓮二は赤也の変化に戸惑っているのだ。
幼い頃からずっと見てきて、自分が指し示したはずの未来へ向かおうとする赤也を見て不安になってしまった。
一人取り残されたような気持ちになったのだろう。
あるいは変わってしまう事によって、赤也の気持ちに変化があってしまってはと不安に駆られたのだ。
広い世界を見てなお、赤也が自分から離れないでいてくれるかという漠然とした不安に。

「ね、意味解ります?柳さんが何で不安なのか…」
「そうだな……蓮二がお前を間違いなく愛してるって事かな?親代わりとしてではなく」
「は?何で?」

変化と成長を喜ぶのは親心。
変化と成長を不安がるのは恋心。

そういう事だ。

変わっていく赤也を素直に喜んでやれない蓮二の恋心と、それに気付かない鈍感な赤也。

次の言葉を待って、期待に満ちた瞳を向けてくる。
でも悔しいから教えてやらない。
もっと思い悩めばいい。
だってお前は俺から蓮二を取ったのだから。

もっと苦しめばいい。

悩んで悩んで、そしてあいつを世界一の幸せ者にしてやってくれ。
それは俺たちの仕事じゃない。
お前だけに与えられた特別な権利なのだから。

「赤也ここのスペル間違えてるよ」
「げっ!!!」
「はい、単語帳出して」
「…ハイ」
「じゃ、100回書いて覚える事」
「………………ハイ…」

そうだ、もっと苦しめばいい。

笑顔の鬼がいる。
幸村は柳が大好きです。 赤也も大好きです。
けど赤也に関しては可愛さ余って何とやら。
赤也の為、とか言いつつ私怨交じりの家庭教師(スパルタ気味)
幸村は柳を利用したように、今度は赤也を利用してます。
悪意はないが、容赦もない。
Reeducation直後のお話でした。

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