La Familia 62.嘘

この家に来るまで、サンタはいると思っていた。
信じてた。

俺が引越した所為で今年は来なかったらどうしようって真剣に悩んでた。
サンタに手紙を書く?
でもどこに向けて出すんだ?
サンタの居場所なんて知らねえし。
ニイは物知りだから、ニイなら知ってる。
そう思ってニイに相談してみた。
そしたら宛先を調べて出しておいてあげるからって言って俺の手紙を預かってくれた。

さすがはニイだって思ってた。
イヴの夜までは。

早く寝ないとサンタが来てくれないよってニイに言われて俺はいつもより二時間も早く布団に入った。
最初は不安だから起きてちゃんと来てくれるか確認しようって思ってた。
でも毎年の事だけど、いつの間にか眠ってしまった。
それから何時間経ったか解らないけど、ゴソゴソと物音がして目が覚めた。
誰?
って考えて、思いつく人物なんて一つだ。
今年も来てくれた!!
俺は布団の中で息を詰めた。
ほんとは見てみたかったけど、もしそのまま逃げられでもしたら困る。
枕元に何かが置かれた。
プレゼント、今年もちゃんと持ってきてくれたんだ。
嬉しくて心臓がドキドキいって、すっかり目が覚めてしまった。
布団の上からそっと撫でられる感触。
そして、聞こえてきた声に、俺は凍りついた。

「メリークリスマス、赤也」

今の声……

聞きなれた襖の擦れる音がして、サンタは帰っていった。

間違いない。
聞き間違えるはずもない。
今の声は、ニイの声だ。

俺は布団の中で動けなかった。

そのまま明け方まで眠れなくて、ニイに起こされるまで気がつかなかった。
毎年25日は家族の誰より早く起きてプレゼント開けてたのに。

昨日の夜の事はやっぱり夢じゃなかった。
枕元に置かれたプレゼントの箱と、ニイの不安そうな顔がそれを物語ってる。
俺は綺麗に包装された箱を開けて中身を見た。
手紙に書いた最新のゲーム機じゃない。
それよりもっと前に欲しがっていたゲームソフトだ。
でもそれを知っているのはニイだけ。

何で今年はサンタが来てくれなかった?
違う。
ほんとは毎年来てなかったのかもしれない。
今みたいに、父さんと母さんがプレゼントしてくれてたんだ。
それを知っててニイは、俺の願いを叶えてくれた…?

後から知った事だったけど、柳家では毎年クリスマスを特別に祝ったりしないらしい。
だからニイも姉ちゃんもサンタは来た事がなかったんだって。
それを考えると小父さんや小母さんがプレゼントを用意してくれるとは思えない。
だったらどうして俺には…
って考えて、行き着く答えなんて一つ。
ニイが用意してくれたんだ。
クリスマスに向けて小遣い貯めて、俺の夢壊さないように。

結局俺の元には中学を出るまでサンタが来てくれた。

次の年、そのカラクリに気付いた俺はサンタに手紙を書く事を止めた。
ニイ、もう無理にプレゼントしなくていいよって。
大事な小遣い俺の為なんかに使わなくていいよって思って。
それでもニイはそれとなく俺の欲しい物を調べて毎年プレゼントを用意してくれた。
でも、中身を見て喜ぶ俺を見た瞬間のニイのホッとした顔と、
その後見せてくれる嬉しそうな顔が俺にとっての一番のプレゼントになった。

いつか絶対俺がニイのサンタになって、今までの恩返しをしよう。
ニイの欲しいもの全部あげよう。

それまではこの優しいウソが俺の宝物だ。  

蓮二さん精一杯の優しいウソ。
気付いても気付かないフリを通す赤也も充分優しい子ですよね。
たぶん「サンタなんていねえよ」って言っちゃったら蓮二さんの方が傷付いちゃうから。
赤也が大人になっちまった、と(笑)

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