赤也の初恋物語。
こんな出会いだったら萌ると思わないかい。
一目惚れだよ赤也。
クラスの女子と比べちゃったよ。
赤也って絶対クラスの女子に嫌われるタイプだ。
「もー切原ちゃんと掃除しろー!ムカつく!」とか言われて。
でも皆赤也をほっとけないみたいな。
そして花名刺を持つ小学生柳蓮二(11)。雅よのぅ…
いや、たぶん祖母さんに作ってもらって嬉しかったから配り歩いてたに違いない。
その辺は年相応な小蓮二。
Reeducationの柳回想の『あの日』からの赤也視点のスピンオフ。
赤也がアホです。
アホの子の独白って意外と難しいな…言い回しが。
赤也にとっての柳は人生の救世主だったんです。
La Familia 59.あの日
俺、今日から"やなぎ"って人の家で住むんだって。
父ちゃんと母ちゃんが死んでから色んな家に行ったけど、やっと俺の引き取り先が決まったって伯母さんに言われた。
ま、別にどこでもいいんだけど。
新しい家には姉弟がいるって言ってた。
兄になる人は一つ上だって聞いたから仲良くなりたい。
昨日まで住んでた伯母さんの家には従兄弟がいたけど、皆意地悪でケンカばっかしてたから。
今度こそ仲良くやりたかった。
兄弟になるんだし。
でも俺はその家に住むけど切原のままなんだって。
ま、別にどうでもいいんだけど。
今日からここが赤也の家だ、って車で連れて来られたのは、
今までたらい回しにされたどの親戚の家より広くてキレイな家だ。
凄い、庭に池のある家なんて初めて見た。
俺知ってる。
こういうのって日本庭園って言うんだ。
社会の教科書で見た事がある。
伯母さんがこの家の人と話してる間、暇だったからちょっと探検するつもりでその庭に入った。
緑がいっぱいで、神社の森みたいだ。
「……誰だ?」
ぼけーっと頭の上の木を眺めてて気付かなかった。
人がいたなんて。
びっくりして声のした方を見たら、キレイな人が立ってた。
俺知ってる。
こういう人を日本人形みたいって言うんだ。
昔ばあちゃん家で見た事がある。
床の間に大事そうに飾ってあった怖いぐらいキレイな人形そっくりだ。
真っ直ぐに揃ったおかっぱ頭と真っ赤な浴衣がすごく似合ってる。
きっとこの家の女の子の方に違いない。
「…もしかして赤也君?今日からうちに来るって聞いてる」
俺の事知ってるんだ。
嬉しくなって大きな声で自己紹介した。
「そう!切原赤也です!よろしく!」
第一印象は大事にしないと。
めいっぱい明るく言ったら、それまで細められていた糸みたいな目が開いた。
驚かせちまったかな、とちょっと焦った。
「えっと…この家のお姉ちゃんだよね?伯母さんに聞いてる。ここには姉ちゃんと兄ちゃんがいるって」
「え?」
「名前は?何て呼べばいい?俺の事は赤也でいいよ」
その人は少し不機嫌になってしまった。
俺何か悪い事言ったのかな。
いきなり嫌われたかとどきどきしてたら、浴衣の帯の中から小さな紙切れを出して渡してくれた。
七夕の飾りに使うような千代紙みたいな花柄の紙に、何か書いてある。
難しい漢字が。
「…何これ?うわっすっげーキレイだ!!」
「花名刺って言うんだ」
「はなめいし?名刺なんだこれ…えっと…」
漢字が難しくて読めない。
二は解るけど最初の字が読めない。
まだ学校で習ってないって、こんな字。
草っていう字の上のやつに、連絡帳の連って字が下に書いてある。
「これが名前。よろしくな、赤也」
「に…ニィ?」
読めない。
「ニイって…それは――」
「蓮二!」
わっ同じ顔の女の子がもう一人出てきた。
少し背の高い方の女の子は、同じ柄で色違いの白の浴衣を着てる。
あれ、でもこの家には確か男と女の子供が一人ずつのはずだけど。
キョロキョロと思わず見比べてしまった。
「蓮二、この子?赤也君って」
「そうだよ」
れんじっていうのか。
連絡帳の連と同じ読み方でよかったんだ。
っていうか男みたいな名前だな。
「そっか、よろしくねー私こいつの姉貴だから」
「姉さんもちゃんと自己紹介しなよ」
「ごめん、ちょっと急いでんだ。帰ったらまたちゃんと話すから!じゃあね!!」
慌しく下駄をカラカラと鳴らしながら、お姉さんは庭の向こうへ消えてしまった。
ん、待てよ。
今姉さんって。
と、いう事は。
もしかして。
「あの、もしかして…弟の方?」
「そうだ」
うわぁっどうしよう。
だからさっきちょっと怒ってたのか。
俺が女の子に間違えたから。
でも間違えてもしょうがないよ。
だってすっげーキレイだし。
クラスのどの女子よりキレイだって思った。
がさつで凶暴なあいつらの方がよっぽどニセモノの女だ。
「まぁこんな恰好だしな…お祖母様に揃いの浴衣を折角誂えたんだからって無理矢理着せられたんだ。自分から着たわけじゃない」
「でもっ俺たぶん半ズボン姿でもぜってー間違えてた!!アンタすっげーキレーだし!」
ヤバイ。
ますます不機嫌にさせちまった。
つい口が勝手に動いてしまった。
本当の事を言ってしまった。
肩震わせてるし、まさか泣かせたのか。
そう思って焦ってたら、いきなり大きな声で笑い始めた。
「面白いな赤也は」
何か解んないけどご機嫌になってくれたみたいだ。
よかった。
今まで一緒に住んでた従兄弟たちを兄となんて死んでも呼びたくなかったし、呼んでなかった。
あんな兄貴はいらない。
でも蓮二君は違う。
何て呼ぼうかなって考えたんだけど、何か最初に口にしたから気に入っちまった。
これから蓮二君の事はニイって呼ぼう。
蓮二君の二と兄ってかけて、ニイ。
いいかな、って聞いたら蓮二君はいいよって笑ってくれた。
今まで女兄弟しかいなかったから弟が欲しくて、それで兄と呼ばれる事に憧れてたんだって。
そんな蓮二君はちょっと可愛いと思った。
ニイは優しくてキレイで頭も良くて運動も出来て、何でもできるスーパーヒーローみたいにカッコいい。
家の人は小父さんも小母さんも俺に厳しくて時々嫌になりそうだったけど、ニイがいてくれるから平気だ。
姉ちゃんも仲良くしてくれてたけど全寮制って学校に行ってるからか、よく解んねーけど時々しか家に帰って来ない。
でも帰って来た時はニイと一緒に遊んでくれる。
姉ちゃんはニイより明るくて元気だ。
落ち着きが無い、ってお祖母様に言われてた。
俺もよく拳骨食らった。
大人しいニイだけはお祖母様のお気に入りだ。
だからいつも忙しそうにしてた。
お茶とか書道とか習ってて。
だから邪魔しないようにって思ってた。
思ってたけど、テレビ見て興味もったテニスをやってみたいってつい言っちまった。
俺が言っても小母さんはたぶん取り合ってくれないだろうからって一緒に通ってくれた。
もう習い事6つもやってるのに。
作法ってやつに厳しいお祖母様も一緒に住んでるから、ニイはいつも無表情。
家でのニイは俺といる時だけ嬉しそうに笑ってくれる。
普段の澄ました顔もキレイだけど、やっぱり笑った顔が一番だ。
だからニイがいつも笑っていられるように、ずっと一緒にいようと思った。
ニイが笑うだけで俺も幸せな気持ちになれるから。
この家で俺の味方はニイだけだ。
だからそんなニイの幸せが俺の一番だ。
ニイが俺の一番だ。