La Familia〜Removal

いつかは言い出すだろうとは思っていた
思っていたが、本当に唐突だった

「帰るの面倒くせーよーもうここに住むーっ」
ブン太の絶叫に、爽やかな朝がぶち壊される。
丁度食後に紅茶で喉を潤していたところだ。
赤也が朝は米がいい、と言うので朝食は毎日二種類用意する。
弦一郎と赤也が和食、残りが洋食だ。
意外だ、と言われがちだが朝から飯は重すぎる為いつも菓子パンなどで軽く済ませてしまう。
この法則が出来たのは赤也も一緒に住み始めてから。
三人暮らしの時は多数決で必然的に弦一郎が我慢させられていた。
始めは面倒だと思っていたが、慣れればどうと言う事は無い。
今日のように他に泊まる人間がいれば、それに合わせて量を増やすだけ。
ちなみに今日は仁王、ジャッカルが和食で柳生、ブン太が洋食だ。
それぞれの活動時間に合わせて朝食を摂っていた。
早くから授業のある柳生はすでに食べ終え、席を立って身支度を整えている。
出かけるまで時間のある仁王はまだ半分夢の中でリビングでぼんやりしている。
ジャッカルは自分の使った食器を片付けている。
赤也と弦一郎はそれぞれおかわりをして二杯目の膳をよそって食べている。
今日はスクールでの練習が休みなので時間に余裕があるらしい。
そしてブン太が2枚目のハニートーストを齧りながらそんな事を言い出した。
「俺に言われてもな…そういう事は家主に言え」
「なー真田ー」
「この家は精市のものだ。まあ元より弦一郎が精市に意見できる事などないがな」
「うっ…その通りだがそうハッキリと言わんでも」
縋る相手を間違えているブン太に教えてやると、弦一郎は苦い顔をした。
一応自覚はあるらしい。
「幸ちゃんは?」
「精市なら早番で店の準備があるからと早くに出たぞ。帰ってから話をつけるんだな」
「柳も援護射撃してくれよ」
「残念ながら俺も精市に意見はできないな。居候の身ではどうにもならん」
食事もすっかり終わり、自分の分を片すついでにテーブルの上に残った食器全てをシンクに運ぶ。
シンクではジャッカルが頼んでもいないというのにすでに洗い物を始めている。
礼を言い、そこは任せてリビングでだらしなく二度寝する仁王を叩き起こし、食卓に向かわせた。
このままではいつまで経っても片付かない。
いつの間にか常備されるようになっていた彼用の茶碗に白飯をよそい、目の前に置いた。
「家やとこうやって朝飯は出てこんからのぅ…ありがたい話じゃ」
「そう思うなら少しは手伝え」
「プリッ」
みそ汁を渡しながら苦言を吐くが、仁王が聞くはずもなく、いつものように話を流されてしまう。
柳生がこの場にいれば間違いなく説教が始まるだろう。
その隣でゆっくりと朝食を摂っていた赤也が嬉しそうに言う。
「けど皆で一緒に暮らしたら楽しそうッスよね。かなりウルサイだろうけど」
「その五月蝿さの九割はお前の粗相とそれを叱る弦一郎の声だぞ赤也」
「うっ……」
「おっ俺もかっ」
「自覚がないのは最大の罪だ弦一郎」
「おんちゃんも参謀の前やと形無しじゃの」
仁王は何故か時々参謀、と呼んでくる。
弦一郎や精市のフォローをする姿を見てのことらしい。
ブン太のように「柳って何か母ちゃんみてぇだ」と言われるよりは幾分ましな気がする。
「おんちゃんと呼ぶな!!」
「その通りではないか」
静かに言い放つと、ついに弦一郎が白旗を揚げた。
早々に食器をシンクに運んだ後、洗面所へ逃げるように行ってしまった。
「あまりからかってやるな。あれで意外と繊細な男だからな」
「いや…柳さんのツッコミが何気に一番キッツイっスよ……」
「そうか?」
「もーっっ真田の話はいいから!幸ちゃんに頼んでよ柳ぃー」
ブン太の叫びが再び食卓に響き渡り、あっさりと話題は元へと戻った。
「自分の事ぐらい自分で頼め」
「うーっっ…柳のケチっ」
「おいブン太。そろそろ着替えねぇとバイトに遅れるぞ」
「へーへー解ってらぃ」
台所に立っていたジャッカルがリビングの壁にかかった時計を見てブン太を急かす。
今日はケーキ屋か、と壁にかかったカレンダーを見て思う。
何故この家の住人でないはずのブン太のシフト表が書かれているのか、と疑問に思ってしまう。
だがほぼ毎日のようにやってくるのだから、先程の絶叫も無理は無い。
いつのまにかこれを見て夕食のメニューを考えるようになっている。
今日のようにまかないの出ないケーキ屋の日はブン太の分も用意して、定食屋の日はいらない。
それが自然の流れになっていた。
誰の視線などもお構いなしと、リビングで素っ裸になって着替えるブン太と、
対照的に人前で着替えるなど、と嫌がりいつも洗面所で着替える柳生の身支度が同時に整った。
よく見れば弦一郎が洗面所から追い出されて玄関にある鏡の前で歯を磨いている。
柳生が出てきたのを見てようやく洗面台を使えるようになった弦一郎が音も無く移動する。
誰がこの家の住人だか解らなくなっているではないか。
「柳君、歯磨き粉がもうすぐ切れそうなので帰りに買ってきておきますね」
「ああ、助かる」
荷物を手に玄関へ向かう柳生が思い出したように言い出した。
自然な流れの会話だが、別に柳生に買って来る義務などない。
「ではいってまいります」
「待てよヒロシ!そこまで一緒に行こうぜ!いってきまーすっっ」
「…いってらっしゃい。気をつけてな」
これは精市の返答次第では本当にこの家の住人が増えそうだ、と予感した。

10月に入って大学の後期授業が始まった。
5月から6月頭にかけて、あの騒動のせいで授業を休んでしまったが何とか前期の単位は落とさずに済んだ。
後期は勉学に励むつもりだが、家がこの状態では先が思いやられる。
今日も家に赤也、弦一郎を残した状態が若干心配だが、授業に出ないわけにはいかない。
サボろうとする仁王をひきつれ玄関先で靴をはいていると、足音が近付いてくる。
「柳さん柳さん」
「どうした赤也」
「いってらっしゃい」
振り返ると一段高くなった上がり框から身を屈めるようにして頬に口付けてきた。
隣りに仁王がいるというのに。
「――赤也っ!!」
突然の事に驚き、思わず声を荒げてしまう。
が、赤也は悪く思う素振りなど見せず頬をだらしなく緩めて笑っている。
「だってーっっ一回やってみたかったんっスよ、いってらっしゃいのキス!!いつもは送り出される側ばっかだしっっ」
「だからといって…っっ」
横を見れば食えない顔をした仁王がニヤニヤと動向を見守っている。
「へぇ、柳もそんな顔できるんやな」
「五月蝿い!行ってきます!!」
「いってらっしゃーい!」
嬉しそうな赤也の声が背後にするが、振り返る事はできなかった。
「ふーん…」
「…何か言いたげだな仁王」
「顔真っ赤じゃよ」
「……不意打ちは勘弁してほしいものだな」
「不意打ちやなかったらええんかぃ…」
呆れる仁王の溜息の意味が解らない。

大学は家から徒歩圏内で、のんびり歩いて20分程の距離にある。
急いでいる時は自転車で行く事もあれば、今日のようにゆっくり歩いて行く事もある。
緑の多い学内はお気に入りの場所だ。
構内に入り、学部の違う仁王と別れて建物の中に入る。
この大学を志望校に決めたのは高校二年になってすぐの事。
本当は実家の近くにある私大を受けるつもりでいたのだが、ある事件がきっかけで家を出る事を決心。
その条件として出されたのが、この大学だ。
公立でなければ援助をしないと言われた。
そして高校三年になってすぐ、赤也を連れて家を出た。
1年間は高校まで遠距離通学となったがそれでも構わなかった。
赤也と二人で暮らしたかった。

今は二人きりではなくなった。
だが幸せだ。
この上なく。

講義が終わってからも教授に足止めを食らい、今日は珍しく帰宅が一番最後になった。
文学部は男子学生が少ない上、真面目に文学を学ぼうと志高い者が極端に少ない。
明確な将来を見据えて勉強をしていると話して以来、よく目に掛けてもらっていた。
早くに話を切り上げるつもりだったが、つい熱心に話し込んでしまった。
帰宅すると、すでに皆帰った後だった。
リビングにはよい香りが漂っている。
「あ、おかえりー柳」
キッチンに立っていたブン太が振り返り、一番に迎えてくれる。
食事は主に弦一郎と二人で分担していた。
だが今日はブン太が作ってくれたようだ。
アルバイトとはいえ本業でやっているだけあり、レパートリーも広いブン太の作る料理はどれも本当に美味しい。
「遅かったな」
精市が縁台からリビングに入ってくる。
夕食に使うハーブを庭に採りに出ていたらしい。
「ちょっと教授に足止め食らってな…資料を集めていた」
赤也は夕食前に走りに出されていた。
スクールで練習のない日でもこうして自主練は欠かさない。
と、いうより欠かさせてもらえない。
仁王はリビングのソファに座りつまらなそうにテレビをみている。
ジャッカルと柳生はその隣で洗濯物を畳んでいた。
弦一郎は仕事中なのか、ここにはいない。
今頃書斎に篭って膨大な量の紙と闘っているはずだ。
手を洗いに洗面所に行く道すがら、コンロの前に立つブン太に声をかける。
大きな鍋には真っ赤なスープの中に大きめ野菜が沈んでいる。
今日の夕食はラタトゥイユか、と頬が緩んだ。
「美味そうだな」
「おうっ!天才的だろぃ」
出来は最高だと嬉しそうに言うブン太の耳元で囁く。
「…精市には言ったのか?」
「まだ。晩飯の時に言う」
「そうか」
魚好きの精市だが、ブン太の作るこの料理をいたく気に入っている。
取り入る為の一つの作戦か、と笑みが漏れた。
そんな事でほだされる相手ではないがブン太の心意気は伝わるだろう。

六人がけのテーブルに八人が揃うと手狭な感覚がする。
だが決して嫌ではない。
帰宅から一時間後に全員が揃い、夕食が始まった。
出される料理に上機嫌になった精市を見て、ブン太は早速話を切り出した。
突然の事に一瞬精市も驚いて目を見開いたが、すぐにいつもの穏やかな表情に戻る。
「ブン太ここに住みたいの?」
「家帰っても父ちゃん母ちゃんうるせーし狭い部屋に弟ズと三人相部屋だぜ?!」
「けどブン太のお父さんより口五月蠅いお父さんがいるよ?ここには」
精市の言葉を理解していなかった本人も、ジャッカルが思わず吹き出した事によって気付いた。
「それは俺の事か幸村っ」
「お前以外に誰がいるんだよ」
尤もな返答に、流石の弦一郎も言葉を詰まらせた。
黙った弦一郎を満足気ににっこりと笑うと、とんでもない事を言い出した。
「あとは蓮二に聞いて。蓮二がいいって言ったらいいよ」
俺に振るのか、と焦った。
まさかそうくるとは思わなかったからだ。
「ほんとか?!」
「ただし生活費はキッチリ入れる事。家賃までは搾り取ろうなんて思ってないから安心して」
人の何倍も食べるブン太のエンゲル係数は相当のものだろう。
正直家賃でも取って賄いたいものだが。
「なぁ柳っ」
「そうだな…家事を分担制にするなら考えてもいい」
「分担制?俺料理しかできねぇぜ」
「ならそのフォローにジャッカルの同居を説得する事」
「俺かよっっ!!」
滅茶苦茶な言い分ではあるが精市の意見は正しい。
ブン太一人を寄越されるより、ジャッカルと二人の方が効率よく家の事が回る。
だがジャッカルは難色を示した。
「冗談じゃねぇ!!最初の頃はちゃんとやっても絶対そのうち全部俺に押し付けるだろ!!」
「そうだな…じゃあブン太は自分の仕事をちゃんとやらなくなった時点で強制退去させるよ」
「…それならまあ…構わねぇが」
精市の言葉はこの家での絶対。
万が一ブン太が破れば問答無用で追い出されるだろう。
「赤也もだよ。これからはちゃんと家の手伝いをするんだ」
「えぇっ?!俺も?!」
「人数が増えるぶん蓮二の負担が増えるのだ。それぐらいちゃんとしろ」
「お前が一番のガンだぞ弦一郎」
「何っ」
「それはそうと部屋はどうする?」
また話が長くなっては面倒なので、早々に話を切り替える。
今この家に余っている部屋は一階の和室だけだ。
「そうだな…ブン太、俺と一緒の部屋にする?」
「駄目だ!!!他の男と同じ部屋など許さんっ」
「食事中に大声を上げるな弦一郎」
精市の冗談半分の発言が怒声にかき消される。
冗談の通じない男だ。
赤也と仁王は噴き出すのを必死で堪えている。
よく見れば柳生までもが肩を震わせ咳払いで笑いを誤魔化している。
「う…すまん」
「二階の寝室、ブン太にあげれば?」
「俺はどこで寝ろと?」
「書斎に布団でも敷けばいいだろ」
容赦ない精市の冗談が続く。
本気で言い合うのも馬鹿馬鹿しいと解っているのに、いちいち反応をするから余計に面白がるのではないか。
「なら精市が弦一郎の部屋に移ればいいだろう。弦一郎と一緒が嫌ならそこから書斎に追い出すなり何なりすればいい。
二階の真ん中の部屋をブン太とジャッカルにやれ」
精市は始めからそうするつもりだったのだが、口に出すのを照れている事を解っていた為代わりに言ってやる。
「蓮二がそういうならそうする」
上手く誘導できたとにっこり笑った。
これで話がまとまった。
「けどブン太。これからは一つ屋根の下で暮らす家族になるんだ。互いに遠慮もなくなるしプライバシーもなくなる。
蓮二だって今は優しくしてくれているけど家族になったら厳しい事を言うかもしれない。
まぁ真田の煩さは今と変わらないけどね…それでもいいって言える?赤の他人同士が家族になるのって、そういう事だよ?」
忘れていた。
何も考えていないのかと思わせておいて、しっかりと考えているのが精市だ。
その言葉に一瞬考えたが、ブン太は確かに頷いた。

次の土曜日、皆でブン太の引越しを手伝った。
今までさんざん外泊をしてきた家に住むという事で親はあっさりと承諾してくれたらしい。
ジャッカルは家の都合で今すぐ引越しするのは無理だが、今まで通り通ってはくるだろう。
二階の中央にある精市の部屋は今日からブン太のものとなった。
ベッドとデスク、本棚だけのシンプルな部屋で、クローゼットの中身を移動させるだけ精市の引越しは終わった。
空になった場所にブン太が家から持ってきた自分の物を片付けていく。
一気に運び込む必要のないものは追々持ってくるという事で大した量もなく、半日で作業は終わった。
「ひっろーっっこの部屋一人で使えるなんて最高だー」
「窓を閉めればしっかり防音できるからある程度のプライバシーは守れるよ。ね、蓮二」
「………何故俺に振る」
ベッドに寝転がり、初めての一人部屋に感動するブン太は精市の言葉の裏など気にする様子もない。
「引越しソバが出来ましたよ」
「よっしゃーっっ!!腹減ったぁー」
タイミング良く昼食が出来たと呼びに来た柳生とブン太が足早に階下へとかけて行く。
それに続いて行くと大きなザルに大量のソバが乗せられてダイニングテーブルに鎮座していた。
「すごい量だな…」
「これぐらい余裕っスよ!」
「だな。早く食おーぜっ!!」
赤也とブン太は待ちきれないとすでに手に箸を握り、皆が席に着くのを待っている。
飲み物が配られ、精市がグラスを掲げた。
「ようこそ我が家へ」
「今日からよろしくっス!!」
「乾杯!!」

ただ食事をしているだけなのに、必ず一度は弦一郎の怒声が飛ぶ。
それは作法の問題だったり、喧嘩だったりと理由は様々。
だがそのお陰で赤也も随分と行儀がよくなった。
この調子でブン太も落ち着きを得られればよいのだが。
「そうだブン太。これがこの家の掟だ」
食事も終わりに近付き、各々席を立っていた時。
最後までテーブルに残り食事を続けていたブン太に精市から一枚の紙が渡された。
「えーっと…食事の予定は必ず伝える事、風呂の時間厳守、ゴミの分別……ん?何だこれ」
「どれ?」
「"赤也と蓮二の部屋に入る時は必ずノックをしてから入る事。その際確実に返事が返ってこなければ入ってはならない"って」
何を示さんかすぐに解り、止めに入ったがすでに時遅し。
「ああ、それね。前に真田がノックだけして返事待たずに入ったら二人真っ最中でさ」
「あー…そーいう事」
「精市!」
「幸村っ」
弦一郎と制止が重なるが、精市の言葉が止まるはずもない。
「そっからが傑作でさ、照れ隠しで真田は怒鳴るわ暴れるわで…恥ずかしいのは蓮二たちなのに」
「何だよ、お前ら親子みたいだと思ってたけどヤる事やってんじゃん」
この手の話はなるべく避けたかったが、あんな思いはもう二度と御免なのでここは軽く流しておく。
だが弦一郎はそうもいかないらしく、顔を真っ赤にして怒っている。
別に自分の話ではないというのに。
「破廉恥なーっって赤也は素っ裸のまま説教されるし。自分も同じ様な事してるくせにねー」
「何何、幸ちゃんどんな事されてんの?」
「聞きたい?」
「おおおおお前らたるんどるっっっ!!!!」
いつもは威厳のある声で放たれる決まり文句も、動揺で声が裏返っている。
だから面白がって余計に話が盛り上がるのだ。
どれだけこの家に住む人間が増えようと、弦一郎のヒエラルキーは変わりそうに無い。
「適当に聞き流しておけ。面白がられているだけだ」
「う…っ」
「それより早く用意しないと仕事に遅れるぞ」
「解っている!」
弦一郎は赤也だけでなく多くの練習生を抱えている。
コーチの予約が入れば土曜も日曜もない。
助け舟を出してやったつもりだったが、ますます不機嫌になり自室に行ってしまった。
「あいつほんっと堅いよなー幸ちゃんあいつといて疲れない?」
「ふふっ…そこが可愛いんじゃないか」
「げーっ…惚気られた」
違う、面白がっているだけだと言いたかったが黙っておく。
「ブン太はいないの?好きな人」
「いねーよ。バイト先ではよく声かけられるから適当に付き合ったりしてるけど」
「へぇ、モテるんだ」
「まーな」
ここで否定しないあたりがブン太の良いところだろう。
食後のお茶を用意しながらまるで年頃の女子のような会話に耳を傾けた。
「けど何っか違うんだよ」
「違うって…可愛い子もいるだろ?」
「うーん……何ていうかお前ら見ててさ、ちょっと考え方変わったんだよ」
「俺たち?」
精市と顔を見合わせ、首を傾げる。
「何つーか…単に好きとかじゃなくてほんとに必要な相手と一緒にいて幸せそうだなーと、思って」
「そういう相手が欲しくなったか?」
「ま、当分先だろうけどな」
ブン太は照れ隠しか、頼んでもいないというのに用意したお茶をリビングにいる仁王たちに運んでくれた。
あまり人の目は気にしていなかったが、身近な者からそう言われて少し嬉しかった。
それは精市も同じなのか、いつもより表情が明るい。
もう一度顔を見合わせ笑い合った。
「なぁ赤也。暇なら打ちに行かねぇ?」
「いいっスねー!行きます行きます!」
「んじゃスクールに電話してコート押さえといてやるから着替えてこいよ」
「ういっス!」
ブン太が同居する事は切磋琢磨する事においても赤也にとってプラスとなりそうだ。
それ以上に悩みや問題も多くなりそうだが。
始まったばかりの新たな生活。
まずは家事の分担表でも作るか、とチェストからノートを取り出した。


 

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