La Familia〜Rearmost〜The special weekday〜New Year's Eve

あっという間、とはこういう事なのだ。
あと数時間で怒涛の一年が終わろうとしている。

クリスマスイヴは何だかんだとそれぞれに用事があり、赤也と二人きりであったが大晦日の今日は皆が揃うようだ。
とは言うものの、今はまだ家に一人。
弦一郎は精市と正月の買出しに行っている。
買い忘れた物があるのだと出かけてしまった。
他の者もそれぞれに用事を済ませてから帰ると連絡があった。
赤也は今年最後のジム通いから帰った後、ランニングに出ている。
もうそろそろ戻る頃かと思いながら風呂の用意をする。
そして夕方になり、これ以上干しておくわけにもいかないだろうと洗濯物を取り入れていると塀の向こう側にその影が見えた。
程なくして門扉が開く。
「おかえり赤也」
「あ!ただいまっ!!」
門を入ってすぐ右手にある物干し台の前に立って、何をしているか気付いた赤也は近付いてきて自主的に手伝ってくれる。
「疲れているだろう?今日は手伝わなくてもいいぞ?」
「だーいじょうぶっスよ」
大量に干してあった服をあっという間にカゴに入れ、それを持って和室の縁台から部屋に入っていってしまった。
「…で、これは俺が持って行くんだな…」
残されたスニーカーを持って、和室に入り、玄関側の襖を開けて持っているそれを置きリビングに戻る。
いつもしているのを見ていたのか、赤也はファンヒーターの前に冷えた洗濯物を広げて置いていた。
「風呂の用意が出来てるから入っておいで。冷えただろう?」
「ういーっス!」
風呂場に消えるのを見送り夕食の準備をしようかと台所に立つ。
夕食当番は弦一郎なのだが、どうせ精市に人ごみの中を連れ回され疲れているだろう。
帰るまでにある程度用意しておく。
とはいえ今日は晦日ソバと冷蔵庫の余り物だけなので三十分しないうちに終わってしまった。
他の者が帰るのはいつなのだろうと思いながら携帯を覗けばメールが二件。
精市とブン太からだった。
精市はあと一時間もすれば帰るからというもので、ブン太からは今から帰るという旨の内容だった。
二人に返信をして、テレビをつけてソファに座る。
年末の特番も毎年同じようなものばかりでつまらない。
どこか静かな番組はやっていないかと適当にチャンネルを変えるがありそうにない。
仕方が無いので年末定番の歌番組をつけたままにする。
そして温かくなった洗濯物をかき集め、もう一度カゴに戻して畳み始めたところで赤也が風呂から上がってきた。
「よく温まったか?」
「バッチリ!もー気持ちよくてまた湯船で寝そうになった」
そういえばこの前同じ様な事を言って湯船で溺れかけていたな。
風呂場で大きな声で叫んでいるのが聞こえて慌てて様子を見に行けば、
頭まで濡らして呆然と浴槽に立つ赤也が目に飛び込んできたのだ。
気をつけるように言ったので同じ失敗は繰り返さなかったらしい。
しかしどうすれば風呂で溺れるというのか不思議でならなかった。
「あれ?!」
「何だ?」
「俺のあげたバングルは?!」
イヴに貰ってから一度も外した姿を見せていなかった為か赤也の顔が青くなる。
「…ああ、さっき夕食の準備をする時に外して……」
台所に置きっぱなしにしてしまっていた。
赤也は台所に飛んで行き、カウンターに置いたままのバングルを手に戻ってくる。
そして洗濯物を持ったままだった左手を取り、あの日と同じように手首にはめてくれた。
「家だったからよかったけどさー…外で失くさないでよ?」
「これからは気をつける」
生白い手首に再び戻る青い光。
赤也もあの日からずっと肌身離さず付けてくれている。
革紐ではいつ外れるか心配だからと自らシルバーのチェーンを用意して付け替えていた。
手首に光る青と対の赤は、赤也の胸に光っている。
それはまるで心臓に戻る血液と全身を巡る為に送り出された血液のようだ。
赤也によって温められた思いが自分の体に流れ込むような錯覚に陥り、急に顔面に血液が集まり始める。
「どうかした?顔赤いよ?」
「…いや、何でもない。暖房で少し逆上せたかな……」
わざとらしかったか、と思った。
だが赤也は何も気にしない風に、ファンヒーターの風向をテレビの方へ向けその前に寝転んでテレビを見始めた。
追究されてしまっては上手く説明できないところだった。
互いにバラバラに用意したものだったが、今ではそれが対のように思えてならないのだ。
体を巡る動脈と静脈のように。
赤也が何か嫌な事や辛い目に遭ったとしても、この石を介してこちらに巡り、
思いを癒してまた笑顔になれるよう元気付けてやりたい。
自分の中で、その為の絆のような象徴になっていた。
この二色の石は。
様々な思いが頭を回り始め、止まらなくなりそうだったので振り払うように洗濯物を畳むのを再開する。
半分ほど洗濯物を畳み終えた頃、赤也の頭がテレビではなく下を向いている事に気付いた。
「赤也、そんなところで寝ては寝冷えをするぞ」
「んー……うん…」
疲れているのか返事だけで、動く様子を見せない。
「赤也。部屋に行って寝るんだ。夕食が出来たら呼んでやるから」
「……イヤだ…」
赤也は眠い時殊に我侭に、そして聞き分けが悪くなる。
仕方ないと、積み上げていた洗濯物を床に置きもう一度赤也を呼んだ。
「赤也、こっちにおいで」
三人掛けのソファの真ん中と端を空けてやり膝を叩くと、のそりと起き上がり近付いてくる。
「違う赤也!!膝枕してやると言ったんだ!」
クリスマスの時と同じ様に向き合うように膝の上に座られ些か焦る。
引き離そうとするが首に噛り付いたまま動こうとしない。
「今日…」
首に顔を埋めたまま喋り始め、くすぐったさに思わず身を捩る。
「トレーナーに褒められた。理想的な食生活してるって」
「そうか。皆のおかげだな」
「けど俺の献立立ててくれてんのって柳さんだよね?俺自分の事褒められるより嬉しかった」
赤也は子供の様にぎゅっと抱きつき、子供の様な笑顔を見せる。
だがそれも一瞬の事だった。
すぐに何かを見つけ、ニヤリと笑みを歪めた。
「すげー…まだ痕残ってる」
何の事を言っているのかすぐに思いつき、慌てて手で隠す。
耳のすぐ後ろに付けられた赤黒いキスマークの事だろう。
イヴの夜に付けられたのがまだ残っているのだ。
よりにもよってハイネックでも隠せない場所に付けられた為、さんざんにからかわれた。
精市にもブン太にも。
気を使ってくれたのか、本当に用事があったのかは定かではないが、
あの日、結局夜の間には誰も帰ってこなかった。
そのお陰で俄然張り切った赤也によって朝まで寝かせてもらえなかった。
翌朝起きたのは昼前で、もう全員が帰った後だった。
何をしていたかなどこちらが言わずとも察しがつくもの。
「……この一週間どれだけ恥ずかしい思いをしたと思っている…」
「けどそれ見る度俺の事思い出したでしょ?」
何がそんなに嬉しいのか赤也は満面の笑顔を崩さない。
やれやれと溜息をついて頭を小突いた。
「そんな事をしなくとも俺はいつもお前の事を考えている。だからもう見える場所には―――っ…!」
言ってる端から同じ場所がチリッと痛みを訴える。
赤也が噛み付くように吸いついているのだ。
「コラッ…!」
また痕がつく、と慌てて引き剥がすがすでに時遅し。
見えはしないが恐らくは一週間前と同じ状態に戻っただろう。
こんなものまで年越ししたくはなかった。
「へへっ」
全く悪いとも思っていないのだろう。
再び悪戯する子供の様な表情を浮かべ、ぎゅっと抱きついてくる。
「もっともっといっぱい考えてよ」
「これ以上余地がない程に考えている」
「なら俺と一緒だ」
こんな一言にまで心躍らされるとは。
赤也を引き離す事を諦め、テレビに視線をやったまま洗濯物を畳む事を再開した。
しばらくはぼんやりと見るとも無しにテレビに視線をやっていたが、壁にかかった時計を見て過ぎた時間に驚いた。
もうじき皆戻るだろう。
「赤也、下りろ」
肩を揺すれど動く様子がない。
完全に体の力が抜け、胸に顔を押し付けたまま動かない。
すっかりと寝入っているのだ。
体を離したが、それまで赤也の体温で温かかった体が急激に冷える。
眠っている所為でいつもよりも温かい。
どこか懐かしいような温もりに、これを離すのが惜しくなった。
どうせ誰も咎めないだろうと、諦めてそのままでいる事にする。
その五分後、まず帰って来たのはジャッカルとブン太だった。
「ただい…うおぉっ!!」
予想通りの反応だが、こちらがうろたえればまた付入られ、からかわれてしまう。
なるだけ平静を装い迎えた。
「おかえり」
「ビックリしたー…何かやってんのかと思ったぜ」
こんなところで一体何をするというのだ。
ブン太はブツブツと言いながら着ていたコートを脱いでソファに置いた。
ジャッカルも同じ様に着ていたコートを脱ぎ、ブン太の物と一緒にハンガーにかけて玄関にある衣裳棚へと片付ける。
「他の奴らはまだみたいだな」
いつもかかっているはずの他の者の防寒着類がない事で推測したのだろう。
「ああ…精市達はあと十五分もすれば戻ると思う。仁王と柳生は…そういえば連絡がないな」
「あいつらなら駅前で会ったぜ。何か買うもんあるっつーから先帰ってきたけど」
帰って早々に夕食のつまみ食いをしようとするブン太が冷蔵庫に頭を突っ込んだまま答える。
「コラ、食べる前に手洗い、うがい」
「へーへー…柳ってやっぱ母ちゃんみてえ」
やっぱりとは心外な。
当たり前の事を言っているだけだというのに。
それでも聞き分けの良い子供達はきちんと手洗いうがいを済ませ、リビングに戻ってくる。
「腹減ったー」
言うなしにブン太はカウンターに置いたままにしてある菓子袋を手に近付いてくる。
左斜め前にある一人掛けのソファに座りながら赤也の顔を覗き込んできた。
「寝てんの?」
「起きていたら振り落としている」
「ふーん…でっけー子供だな」
本当に、図体ばかりが大きい子供だ。
軽く背中を叩くがやはり起きる気配がない。
これはもう夕食だと言うまで起きないだろう。
「ほら、風邪引くぜ」
「ああ、ありがとうジャッカル」
自分が温かい所為で気付かなかったが、赤也は背中が寒いはずだ。
それに気付いたジャッカルが赤也の背中に毛布をかけてくれる。
リビングに来てすぐまた出て行ったのでてっきりトイレに行ったのだと思っていたが、相変わらず気配りの出来る男だと感心した。
その後も頼んでいないというのに洗濯物を個別に分け、片付けてくれる。
ソファに伸びてだらしなくテレビを見るブン太とはえらい違いだ。
しかし弦一郎が戻れば間違いなく夕食の手伝いをさせられるだろうし、今はゆっくりと休ませておいてやる。
ブン太が菓子を食べつくした頃、再び玄関で物音が響いた。
誰かが帰ったか。
いつもならば出迎えるところだが、膝の上の大荷物の所為で動けない。
「た……だいま帰りました」
「おかえり」
入ってきた柳生はリビングに足を踏み入れたところで一瞬動きを止めた。
「うおっ…いきなり止まりなさんな柳生」
その背中を押すように仁王もリビングに入ってくるが、同じように一瞬動きを止めた。
「えらい大きな湯たんぽ抱えてるのう」
仁王の言葉は尤もだ。
赤也がくっついているおかげで暖房もいらない程に温かい。
「おっかえりー仁王ー何買ってきたんだよ」
「んー?ソバだけやと足りん思って色々惣菜買ってきた」
先程までだらしなく身を投げ出していたブン太が食べ物の匂いを嗅ぎつけ体を起こして仁王の手から袋を奪う。
「おー気ーきいてんじゃーん!流石柳生だな」
「何で俺の案やと思わんのじゃ」
「お前がそんな気ぃ回せるかよ」
「プリッ」
しかしブン太の言う通り、ソバや残り物だけでは些か心許無かった。
流石は柳生といったところか。
あとは精市と弦一郎が帰ればようやく夕食になるだろう。
しばらくは皆テレビを見たり風呂に入ったりと各々に大人しく過ごしていた。
だが九時半を回った頃から愚痴が零れ始める。
「腹減ったぁー…もう先に食っちまおうぜー…」
「今年最後の食事ぐらい皆で取りましょうよ」
いつもはそれに加勢するはずの赤也が寝入っているおかげでブン太は味方を得られず、柳生の説得に渋々と応じる。
年末でどこも混んでいるのだろうが、それにしても遅い。
そろそろブン太の空腹も限界かと思われた頃、ようやく最後の二人が帰って来た。
「ただいま」
流石は精市。
この異常な状態も笑顔で受け流した。
弦一郎はしっかりと動きを止めて驚いていたが。
「遅かったな」
「道混んでてさ、バス全然進んでくれなくて」
「もーマジ腹減ったー!早く飯!!飯にしよーぜ」
ついに限界にきたのかブン太は自らキッチンに立ち、夕食の準備を始めた。
それもそのはず、壁の時計はすでに十一時を示している。
テレビの中の歌番組もいつの間にか佳境を迎えていた。
しどけなく寝入る赤也が気になるのか、弦一郎が毛布を被った背中を叩く。
「赤也!起きんか!!」
これだけ周りで騒いでいても起きる気配が全くない。
それだけ疲れているということだ。
弦一郎の手を払い退けた。
「疲れているんだろう。ギリギリまで寝かしておいてやれ」
「しかし…」
「真田、蓮二独り占めされたからって拗ねるなよ」
「そっ…そういう事ではない!」
何故こうも毎度精市の冗談を間に受けるのだろう。
弦一郎は怒った様子でキッチンに行ってしまった。
「これ見ると今年が終わるって感じだよね」
精市は隣に座り、テレビに視線をやりながらポツリと呟く。
画面の中では大トリの歌手が全出演者の喝采を受けながら歌っている。
そういえば去年は受験前でそれどころではなかった。
余裕のない様子に遠慮してか、赤也も何も言わなかった為年末年始らしい事は何もしてやれなかった。
しかし今年は違う。
一般家庭と言うには一癖も二癖もあるが、それでも家族と同じ、
否それ以上の温かさのある空間で新年を迎えられる。
「去年はさ…」
「ん?」
「去年は真田と二人だったけど、今年はにぎやかでいいなと思って」
精市も同じ思いだったようだ。
そうだな、と頷くとキッチンから明るい声が上がった。
「おーいソバ茹で上がったぜぃ」
「本当に年越しソバになっちゃったな」
ブン太の呼びかけに精市がそう言いながら赤也のお尻を思い切り捻り上げた。
「いいっってぇええ!!!」
「いつまで狸寝入りしてるんだ?いい加減蓮二から離れろ」
「マジで抓る事ないじゃないっスか!!」
精市の言葉は本当なのか寝起きの悪いはずの赤也が飛び起きて涙目で訴えている。
伝わる体温にすっかり安心しきって寝ているか否かなど気にならなくなっていた。
「……ちぇーっ…」
「蓮二に謝っとけよ。重たい思いさせたんだからな」
そう言い放って精市はダイニングテーブルについた。
残された赤也が申し訳なさそうに視線を寄越す。
「いいよ。謝らなくて」
「けど重かったよね?…ごめん…ほんとは仁王さんたち帰って来た頃に目ぇ覚めてたんだけど…」
「俺も温かかったから」
少し足は痺れてしまったが、差し引いても充分に幸せな時間だった。
「昔の事ちょっと思い出した。ガキの頃よく背中抱きついて温かかったのとか」
そうか。
どこか懐かしいと感じたのはそれだ。
冬になるとどこか底冷えをする自室で書生机に向かい読書などをしていると、
いつの間にかやってきていた赤也が背中合わせに座っていた事を思い出す。
「おいそこのバカップル!!いちゃついてねーで早く座れ!!」
懐かしい思い出に、赤也を見つめて目を細めているとダイニングからブン太の罵声が飛んだ。
空腹も限界のようだ。
席に着くと弦一郎の合掌の合図で今年最後の食事が始まった。
隣に目をやり、柳生と仁王の買ってきた惣菜ばかりを食べる赤也を咎める。
「年を越えながらソバを食べるのは縁起が悪いと言うから先にソバを食え。それに伸びてしまうぞ」
「はーい」
腹が減っているのは皆同じ思いなのか、黙々と箸を進めている。
あっという間にソバを完食し、惣菜を突き始める。
今年も残すところあと十数分のところまできている。
別れと出会い、そして再会。
様々が詰まった一年が終わりを告げようとしている。
辛い事がたくさんあった。
しかしそれ以上に幸せな日々を得られた。
かけがえの無い存在に気付いた。
かけがえの無い存在を得られた。
また来年の今日の日も同じように過ごしたい。
そう心から願いながら箸を進めていると、カウンターに置かれたテレビに目をやった精市が声を上げる。
「あ、カウントダウンだ」
行儀悪く箸で画面を指す姿に弦一郎の機嫌が些か悪くなるが、こんな日に説教も何かと思いとどまったようだ。
「10…9…」
赤也とブン太が声を揃えてカウントダウンを始める。
「3…2…1……ハッピーニューイヤー!!!」
強烈な破裂音と共に新年が幕を開けた。
あまりに突然の事で一瞬何が起きたか解らず呆然とする。
いつの間にか結託した赤也とブン太と仁王が大きなクラッカーを鳴らしたのだ。
「食事中になんだ!!」
「あ、真田初怒り」
面白そうに指を差して笑うブン太に弦一郎の堪忍袋の緒が切れてしまった。
「何でも初を付ければいいというものではない!!そもそも新年というものはもっと粛々と厳かに…」
「お前が一番五月蝿いよ、真田」
クラッカーから噴き出したカラーテープを頭に受けた何ともマヌケな姿で説教をする弦一郎を、精市は笑顔一つで黙らせる。
「あけましておめでとう皆。今年もよろしくな」
精市に倣い、皆頭を下げそれぞれの思いを胸に新年の挨拶を交わす。
「なあ初詣行こうぜ。こんな時間に飯食ったんだし腹ごなしにさ」
食事も終わり、片付けをしながらブン太が提案する。
寒いと文句を言う仁王をブン太は蹴り一つで従わせ、全員で初詣に行く事となった。
準備をして玄関を出ると、クリスマスと同じく雪が降っている。
玄関の施錠をして最後に出ると、皆はもう道に出て歩き始めていた。
赤也だけが門のところで空を見上げている。
「うわー雪!」
「上向いて口開けんなよ赤也ー」
「んな事しませんって!!」
「行こう」
先頭を歩くブン太にからかわれ、怒る赤也の肩を叩き歩き始める。
「あれ?アンタ手袋は?」
「……あ…」
「忘れたの?」
家から十数メートル離れたところで赤也に指摘され気付いた。
しかし今更わざわざ取りに戻るのも面倒だ。
そう思っていると、すでに冷え始めている指先を赤也がぎゅっと握ってくる。
「カイロ代わり!」
「見られるぞ」
「平気平気」
左手はコートのポケットに右手は赤也と繋がったまま歩き始める。
神社に近付くにつれ、徐々に人通りが増えていくが、皆人ごみに精一杯になっていて誰も気にする者もいない。
「去年は…いい事もやな事も一杯あったっスね」
「……そうだな」
別れて、出会って、再会して、そして今がある。
「今年は……いい事でいっぱいになるといいっスね」
「そうだな」
きっとそうなる。
たくさんのいい事に包まれた一年に。

そう願いながら、手をつないだまま雪の降る道をゆっくりと歩いた。


 

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