何や短いけどこんだけ。
見たや逢いたや山ほととぎす、姿ならずば声なりと
仮眠を取っている最中に耳元でガーガーと鳴り響く携帯のバイブ音に飛び起き、謙也は急いで通話ボタンを押した。
「はいっっ!!内科の忍足です!何階何号室ですか?!」
相手からの返事がなく、どうしたのだろうと思いながら目を擦り返事を待つ。
だが通話口からするのは緊急性を含んだ看護師の声ではなかった。
『……何と勘違いしてんっスか』
「え…は?」
何故光が、と思い周りの風景に自分が寝ぼけていたのだと気付かされる。
ここはいつも仮眠している医局ではなく、自分の部屋だ。
「あ……」
『忙しそうっスね、相変わらず』
「あー……めっちゃ寝てしもてた…」
『何しとったんですか?』
「学会資料読みながら寝とった…うわー…2時間もワープしとるし。電話もらえてよかったわ…光起こしてくれんかったら朝まで寝とった」
そういえば光もレポート提出や論文だと忙しいのだと言っていたが、こんな風に呑気に電話していて大丈夫なのだろうかと心配になる。
「光は?時間ないんちゃうん?」
『ないっちゃないけど…まぁ10分ぐらいどうって事ないし』
「そうなん?まぁ…最近全然会えてへんもんなぁ」
お互い忙しさに負け、もうかれこれ半月程も会っていないと机に置いてある卓上カレンダーを見ながら言う。
『会いたいですか?俺に』
「そっちこそ」
『まあ…けど……とりあえず声聞けたんでそれでええっスわ』
いつになく素直な言葉に思わず電話を落としそうになる。
だがすぐ後に隣からする騒がしい声に、一人でいないのかと怪訝に思う。
「え、横誰かおるん?」
『知りたい?』
「うん」
『知らん方がええ思うけど』
「なっ…何で?!」
その相手に全く心当たりがなく、焦る謙也の様子が電話を通して伝わってしまったのか、光は可笑しそうに笑い声を上げている。
『さっきの答え』
「え?」
『一階っスわ』
「は…?」
『一階。先生待ってる人、一階にいてますよ』
一瞬何の事だか解らず、数秒後に脳天に達して理解した謙也は携帯を握り締めたまま部屋を飛び出した。
バタバタと大きな足音が電話口からも聞こえる事に確信する。
そしてリビングの扉を開けると、そこにいる自分の家族とその中に当たり前のように混ざる光がいた。