アンジェラス シルキー〜メロンパン

珍しいメールを受信して謙也は首を傾げた。
思い人である財前からのメールはどんな内容であれ嬉しくて、つい何度も見てしまう。
内容を覚えてしまいほどに。
だからこんな風にテンションの高い財前からのメールなど今までなかったと思ったのだ。
携帯電話の小さな画面に映る件名は『見て見て!』
たいていは無題である事が多いというのに、よっぽど嬉しい事があったのだろうと、いそいそとメールを開く。
宛先に白石と千歳のメールアドレスが同時に記載されていて、どうやら一斉送信されたものなのだろうと思う。
『めっちゃ面白くない?メロンパンみたいになった!』
内容からしてもしかすると、間違えて送ってしまったのだろうかと思いつく。
自分が相手だと遠慮して素っ気ない内容になっているが、仲の良い二人相手だとこんな風に楽しげなのかと知らなかった一面を見てしまった。
だが続きの文面に、謙也は片手に持っていた麦茶を床に落とし、口の中にあった水分を勢いよく吹き出した。
台所にいた母親に汚いアホ!と罵られ怒られたが、謙也はそれに耳を貸さずそのまま自室に駆け込んだ。
『ノーブラでシャーリングのキャミ着てたらこんな事なってしもた。メロンパンみたい(笑)』
部屋に戻り、しっかりと扉を閉め、鍵までかけてからもう一度メールの文面を見返す。
何度読んでも内容に間違いはない。
暑さで頭がおかしくなって、空目をしたようではないようだ。
ノーブラ?キャミ?
だとすれば、と謙也は添付されていた画像を恐る恐る開いた。
そして画面いっぱいに表示される財前の自分撮り画像にひっくり返った。
鏡を見ながら撮ったものなのだろう。
顔はほとんど映っていないがわずかに見える口元でそれが財前である事は間違いないと解る。
そこにあったのは真っ白な肌の財前の豊満な胸が大写しになった画像だった。
中心にあるはずの色の付いた部分はデコレーションスタンプで隠れていたが、その周囲はばっちりと写ってしまっている。
と、いうよりそれを見せたくて送っているのだから写っていて当然だ。
シャーリングが何か謙也は解らなかったが、恐らく服を着ていてその跡が面白くついたから白石達に見せたのだろう。
お椀型の綺麗な白い胸についた赤い格子模様が確かにメロンパンのように見えなくもない。
それを間違えて自分にまで送ってしまった。
絶対に見てはいけないものを見てしまい、謙也は理性と欲望の狭間で闘った。
この写真を保存して、こっそり一人で使いたい、だが間違えて送ってしまったものなのだから、そんな事をしてはいけない、すぐにメールを削除してやるのが当然だ。
だが、しかし、でも。
携帯を握りしめたまま悶々と格闘していると、突然手の中のそれが鳴り始めて謙也は挙動不審に体をビクつかせた。
そして画面にある白石、の文字に内容が予想できて取ることが躊躇われる。
しかしこのままでは何度もかけてこられそうなので意を決して通話ボタンを押した。
『ちょっと謙也!!さっき光からメール入ったやろ!それ見た?』
「う、え?!」
見ていないと言えば良かったのに、思わず口ごもってしまい白石が火を噴くように怒り始めた。
『見てんな?!くそっ、今すぐそのメール消せアホ!!ついでに記憶も消せ!!』
「けっ、消した!!お前らだけに送りたかった間違いメールやと思て中見んとすぐ消した!!」
『ほんまやろな?!明日ケータイチェックして中にメールとか画像残ってたらあんたのケータイ折るからな!ほんであんたの記憶ブッ飛ぶまで殴る!!』
「だ、大丈夫や!絶対残ってへんし見てへん!!」
『それやったらええんやけど…嘘やったら承知せーへんからな!』
「お、おう……」
ブチッと切られる携帯をしばらく眺めていたが、我に返りもう一度メールを開く。
悪いと思いながらも画像をマイクロSDに保存してそれを携帯から取り出し勉強机の引き出しに隠す。
そして明日携帯電話を見られても大丈夫なようにメールを削除した。
財前には悪いと思ったが、こんなにオイシイおかずを持ってこられては食べるより他ない。
だって健全な男子やもん、と何度も言い訳しながらも、先程の画像を思い浮かべ、緩く熱を持ち始める下半身に手を伸ばした。

使わないわけがない。

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