恋は突然



繁華街は今日も人が多くて、だれもがうんざりとした表情で町を歩いていた。
子供達や制服の学生達が騒ぎながら歩いていく。
天気のいい日曜日は学生達にちに訳も無くわくわくした高揚感を与える。

そんな中、忍足はうっとうしい髪をそのままに、日陰を通って歩いていた。
眩しいのは嫌いだし、眼鏡をしているから余計に眩しくなる。

(あ〜はよグリップテープ買うて帰ろ…。)



「忍足君!氷帝の忍足君じゃないか?」

「…え?あぁ、大石…く、ん?」

振り返ると、見覚えのある人間。
青学の大石。

「久しぶり!元気そうじゃないか。どこに行くんだい?」
「え…と、グリップテープ買いに…。」

「ああ、なら竹島スポーツだな。俺も今からそこに行くんだ。」

どうせなら一緒に行こう!と爽やかな笑顔で言われて、忍足はますます影に逃げた。
世にも珍しい二人組がその日、結成されてしまったのだ。

二人は店に着くまでずっと話をする。
テニスの話、テストの話、友達の話…。

「ああ、店が見えて来たよ忍足君。」
「あ、あのな…?」
「ん?どうした?」
「ちょっとその…『君』ってのは…やめにせぇへん?」

どうにも忍足にとって、その呼び方は馴染めない。
大石みたいな爽やか人間に『君』付けで呼ばれると何だかむずむずするのだ。

「ああ…すまない。じゃあ…忍足?」

「…ん…。」

にこっと笑って覗き込んでくる。
この瞬間、忍足はふと、大石は学校で女子にモテるらしい、と言う噂を思い出した。
ないない、だって他にいっぱい美形が居るじゃないか、と笑っていたのだが。


(こいつ…もしかしたら天然でホストや!)


覗き込まれて呼び捨てとか反則技だ。
それに先刻から驚いているのだが、大石にとても紳士な振る舞いを感じる。


(同性にこれやねんから女の子にはもっと…なんやろな。)

気付いたらさり気なく大石は必ず道路側に居る。
さらに店の扉は彼が開け、先に忍足を中に入れる。

自然で、しかも嫌味が無い。


「忍足?」
「ん?あぁ…、何?」


「はははっ、忍足って案外ぼんやりさんなんだな。」


(あ〜あ…こんな彼氏やったらなぁ…)


忍足はふと考えて頭を振った。
忍足は男も女もどっちもイケる。
最近付き合っていた女子に振られた所で、ちょっとセンチになっていたのかもしれない。

(ちょっと、遊んでみよかな?)


店を出た所で、忍足が「歩き疲れたわ…。」と言おうと思った瞬間、



「疲れたのか忍足?」
「え?や…その。」
「暑いからなぁ…少し涼んで行こうか?」
「ん…。」


どうにも天然相手だと調子が狂う。
いつもなら疲れたふりして、目を見つめて、心配してもらって、店に入っていい雰囲気に持って行って…
だが、どうにもペースは大石が掴んでしまっている。

入ったコーヒーショップで、ソファの方にエスコートされ、大石の頼んでくれたアイスコーヒーを飲む。
また色々な話で盛り上がった。
いつの間にか忍足は大石に学校の愚痴なんて言ってしまっている。


「忍足は努力してるんだな。凄いな!」


笑顔で言われてしまっては、返答に困ってしまう。


「今日は忍足に会えて本当に良かったよ。」


そんな恥ずかしい言葉が全く自然に聞こえてしまう。
忍足は大石をまじまじと見てしまった。


「ん?どうしたんだ忍足。
 あ、そうだ、携帯の番号教えてくれないか?
 今後色々連絡出来たら便利だろうし…折角仲良くなれたんだしさ。」
「お、おう…。」


ここまでされたら普通は勘違いをしてしまわないだろうか?
大石は誰にでもこんな感じなんだろうか。

(俺に…気があるんか?)


そんな事を思ってしまう。
携帯の番号はすぐに交換された。


「そうだ!今度一緒にテニスしないか?」


嬉しそうに笑う大石。


(あかん…俺、ちょっと今、ときめいた…。)


凄くいい雰囲気ではないか。
と忍足は驚いた。


(どないしょう…意外と…好み、かも。)


「忍足?…嫌だったかな?」
「え…?いや、そんな事ないない。俺も一緒にテニス、したいで?」
「そうか!よかった。」


満面の笑みに、忍足もつい微笑んだ。
と、大石がちょっと驚いたように動きを止める。


「ん?どしたん?」
「え、いや…忍足って笑うと少し雰囲気かわるんだな…。」
「…変?」
「いや、凄くいい笑顔だと思うよ。もっと笑ったらいいのに、もったいないな。」
「そ…そんなん言われても…何も出えへんで!」

今度は真っ赤になった忍足に。
大石は爽やかに笑ってみせた。


(ああ…もう…俺って惚れやすいんか…?)

「そうそう、英二も一緒に連れて来るけど、いいかな?」
「え?別に…ええけど。」

忍足の胸がちくりと傷む。
でも、菊丸は彼のパートナーなのだから仲がいいのは当たり前だ。

「そうか、ありがとう!英二も喜ぶよ!」

(もしかして…?)

大石の笑顔はそれまでと少し違う。
嫌な予感がした。



「大石…ジブン、彼女とかおるん?」
「え…?」


爆弾だったのだろうか、大石が大きく動揺する。

(おるんや…。)


忍足はピンと来た。


(聞いたら…アカン。)


今聞いたら、自分はショックを受ける気がしたから。
どうにもこのパッとしない男に惚れてしまったらしい。

「あ、おるんやろ〜?ま、詳しくは聞かんけどな…。」
「あ、うん…ありがとう。」
本当に誠実そうな大石の笑顔が、忍足には眩しく見えた。
そして何だか腹が立った。

「テニス楽しみやわ。」

笑顔で言うと、大石も「そうだな!」と笑顔で返してくれた。
喫茶店を出ると、軽い挨拶をして二人は別れる。



(望みは…あるやろか?)


忍足は帰り道、大石のやさしい笑顔を思い出していた。
そして菊丸の笑顔も。

えらい事になってしもた…と、大きくため息を付いて。













《END》

ってかこの企画本当に難しいな!
どこまで書くべきか悩みました。あやうくエロに突入だったんですよ!
次の『ありえないCP』は何?!

よし、大跡に挑戦だ!