SIDE-O
最近宍戸さんの様子がおかしい。
原因は解っている。
あの黒いジャージを着た庶民一派に加わってからだ!!!
俺がどんなに誘っても俺がどんなに尽くしても宍戸さんはあいつらの元へ行っちゃうんだ!
事件は先週の下校時に起きた。
いつもうちの車で送りますって行ってるのに、宍戸さんはいつも断ってしまう。
何故?!
俺と宍戸さんの間に遠慮なんていらないはずでしょう?!
どうすれば宍戸さんがもっと俺に甘えてくれるんだろう…はぁー…
そんな溜息吐きながらとぼとぼ歩いてたら、向こうの通りで大きな叫び声がした。
ひったくり―――!!!!
…って、ひったくりって何ですか宍戸さん?
隣の宍戸さんに聞こうと思ったら、すでに宍戸さんは瞬間移動を始めてしまっていた。
「し…宍戸さああぁんっっ!!!」
ひったくりって何なんですか?そんなに貴方を惹きつけて止まない存在なんですか?!
俺はひったくりって奴に嫉妬しながら一生懸命後を追った。
追った……が、宍戸さんの背中はすでに豆粒。
自転車乗ったひったくりって奴に追いつく勢いで走っている。
ダメだ、あの人には追いつけない。
汗と涙で視界がぼやけてきた。
SIDE-K
ひったくり―――!!!!
あぁもう何っっでこう俺はひったくり被害者に遭いやすいんだ?!
下校途中、グリップテープを買いに来た商店街で、またひったくりのバカに遭遇しちまった。
「っしゃ!!リズムに乗…」
「どぉらああああああ!!!!!」
……何だ今のは?!目の前で風が横切ったぞ?!
とにかくあいつもひったくり犯を追いかけてるんだろ。
俺も加勢してやるぜ!!
そしてあっという間に追いついて驚いた。
「お前っ…不動峰の神尾っ!!??」
「あんた氷帝の宍戸さん?!」
青い帽子に見覚えがあると思ってたら、氷帝の宍戸さんだった。
「丁度よかった!てめーも手伝え!!」
「言われなくてもっ」
入り組んだ商店街で自転車を乗り捨てた犯人が俺たちに捕まるのは時間の問題だった。
「神尾っその路地から挟み撃ちするぞ!!」
「任せといてください!!!おおおおぉおリズムを上げるぜっっ」
意外なほどに息の合った俺たちは、あっという間に犯人をとっ捕まえ、警察に突き出してやった。
桃城のバカとだったらこうはいかなかっただろうな。
二人ともでっかいバッグ持ったままだったけど、全力疾走すりゃその辺の奴らなんて絶対逃げ切れない。
「あんたすげーよ宍戸さん!!」
「サンキュ。お前もな。流石は不動峰のスピードエースだぜ」
交番で一通り事情を話し終えた俺たちは、再び商店街に出た。
宍戸さんも帰宅途中だったのかよく見れば制服姿だ。
「なぁ、お前腹減ってねぇ?」
「めちゃくちゃ減ってるっす。俺も部活終わりなんで」
「じゃぁラーメンでも食いに行くか?」
「いいっすねー!!」
俺はその時、刺さるような視線を感じた。
が、それが何かを知るのは、それから数週間後になる。
SIDE-O
ようやく宍戸さんに追いついたのは数十分後。
何故か交番から出てくるところを見つけた。
「…ししどさ………ん?」
駆け寄ろうとしたら男と二人で歩いてる。
その男は誰なんです宍戸さん!!!!
俺の事なんて微塵もカケラも気付いてない様子の宍戸さんは、
そいつと楽しそうに商店街の小汚い店に入っていってしまった。
きっとアイツがひったくりなんだ。
許せない……
俺から宍戸さんを奪う奴は皆許せない!!!
思えばあの日から宍戸さんの様子はおかしかったんだ。
今日も俺は宍戸さんを誘って帰ろうと思っていた。
「宍戸さんっ今日帰り何か食って帰りませんか?」
「あー…悪ぃ。今日約束あるんだよ」
「ややや約束!!???だだだっっ誰とです?!」
「別に誰だっていいじゃねぇか」
何でそんな鬱陶しいものを見るような顔をするんですか宍戸さんっっ
俺切ないです!!
「そない詮索したりなや鳳…宍戸かて犬の世話ばっかりやのおて、たまにはデートの一つや二つ行きたいわなぁ」
五月蝿いですよ丸眼鏡先輩。それに前髪がウザいです。
だから近寄らないでくださいね。気持ち悪いんで。
だいたい…でででデートって何なんですか!
宍戸さんはそんな俗物じゃありませんっ!!
「とにかく付いてくんじゃねぇぞ。お疲れ!」
ああぁあ置いていかないでください宍戸さんっ
うぅ…焦ってズボンが上手くはけない…
「鳳…お前、前後ろ逆はいてどーすんだよ」
はっ!!ご指摘ありがとうございます向日先輩っ
SIDE-S
ったく…何であいつはこうも俺の行くとこ行くとこ付いてきたがるんだ…
犬じゃねぇんだ、犬じゃ。
それにこれから行く場所は連れて行くわけにはいかねぇ…
「あ、宍戸さんっ!!」
「おぅ。待たせたか?」
「いえ!俺も今来たとこっス」
この間の一件以来、意気投合した神尾と俺は部活帰りにテニスをして、ついでに寄り道するのが日課になっていた。
こんなの氷帝の奴らに見られたら何言われるか解ったもんじゃねーぜ。
あんな敗北の後だしな。
跡部あたりにネチネチ言われそうだ。
「どうかしたんすか?宍戸さん」
「いや、何でもねぇ。始めるか!!」
「はいっ!!」
それから一時間ほど打ち合った。
部活の後だからお互い動きは少し鈍いが、部活みたいにピリピリした雰囲気もなく楽しい。
特に今日は監督が来てたせいで余計に疲れたぜ…
何かこう…熱い…視線を感じる気がするんだよな…監督が来ると。
そういや忍足が変な事言ってやがったな。
監督は少年癖があるのどうのって…くそっ寒気してきやがった!!
だいたい何で俺なんだ!!
部員は他にもいるだろうが。
「ど…どうしたんスか…宍戸さん…眉間にシワ寄ってますよ…俺何かしたッスか?」
「悪ぃ!!ちょっと考え事してた」
神尾の声で我に返って、慌てて帰る仕度をする。
「なぁ、今日はどこ寄って帰る?」
「あー…すいません…俺もう小遣いヤバくて」
「何だ、そうなのか?だったら奢ってやるって」
「えぇっ?!いや、悪いっスよ!!」
「んだよ遠慮すんなって。ラーメンでいいか?」
「あ…はいっ!ありがとうございます!!」
ま、一応先輩だしな。
それに神尾は普段でもそうなのか、目上に従順で可愛い。
つい構ってやりたくなるんだよな。
趣味とか好みも似てるから一緒にいて楽しい。
そして普段一緒にいないからか、つい愚痴っちまう。
何をって、学校の連中の事。
正直ついていけない事が多すぎる。
特に跡部。
そして、長太郎。
「あー…やっぱ落ち着くー……」
お世辞にも綺麗とは言えない商店街の隅にあるラーメン屋。
カウンターに座って水を飲んで大きく溜息を吐き出す。
「どうしたんっスか宍戸さん」
「お前さ…ラーメン食いに行くって言ったら普通こういう店想像するよな?」
「え…えぇ、まぁ…」
「うちの学校の奴によ…ラーメン食いに行こうつったんだ。そしたらどこ連れて行かれたと思う?」
「さ…さぁ……」
「ホテルの最上階にある中国料理屋だぜ?!ありえねぇよな!!」
俺の気迫に負けたのか、その事実に引いたのか。
神尾はでっかい目を見開いて驚いてる。
「中華…でなく?」
「そう、中国料理。何か目の前に回る台があって、丸の状態のトリが運ばれてくる店」
「それは下校途中に寄る店じゃないっス……普通」
「あんなお上品な店、食った気しねぇぜ…ニンニクの匂いのしない餃子とかよ…この原型留めてねぇんだ」
「は…はぁ」
「お前食った事あるか?水に浮いた金魚の形した餃子」
「な…ないっス…っていうかそれ餃子なんですか?」
目の前で湯気を立て、匂いを放つ皮がパリパリの餃子。
これだよ!!俺の言う餃子は!!
「餃子ってやっぱこういうやつのがいいっスよ。それにラーメンも豪快に食った方が美味いし」
「だよな?!あーお前と仲良くなれてよかったぜ…こんな話誰も解ってくれねぇからなー」
「俺もです!!うちは橘さん以外に部活の先輩っていないから、こうやって打ち合ったり寄り道したりってすげー楽しいっスよ」
「そうか!!そりゃよかったぜ」
SIDE-K
宍戸さんはハッキリ言ってカッコいい。
橘さんとはまた違うタイプだけど頼りになる兄貴って感じがする。
正直好きだ。
いや、変な意味じゃなくって!!
あ、でも普段はカッコいいけど、笑った顔とかすぐムキになるあたりは意外と可愛い気がする……
いやだから変な…意味じゃ……ないはず…
「っげっっ!!!」
「どうしたんスか?…げっ!!」
「宍戸さん!!!」
出たな座敷犬!
店を出たところで鳳が涙を溜めて待ち構えていた。
「なっ…何でてめーがこんなとこいるんだ!?」
「待ってたんですよ!!どーして俺の事邪険にするんですかっ!!」
「してねぇだろ!!変な言いがかりつけんじゃねぇ!!」
「今日だって言ってくれればこの間のお店リザーブしました!!ラーメン食べたかったんでしょう?!」
「あんなのラーメンのうち入るか!!俺はこういう店で食いたいんだ!!」
「じゃぁ何で俺も連れて行ってくれないんですか?!」
「前に食わせたらお前腹壊して大変だったじゃねぇか!!!」
「だ…だってあんな脂っこいもの食べたら…仕方ないじゃないですか」
流石は鳳。
腹ン中までお上品に出来てやがるのか。
それにしても四六時中この調子じゃ宍戸さんも大変だな…
っていうか可哀想だ。
「おい鳳!いい加減にしろよ」
「何なんですか」
宍戸さんには泣きそうなツラしてたくせに、俺には挑戦的な、どす黒い空気をぶつけてきやがった。
面白ぇ!!受けて立ってやる!!
「宍戸さんが迷惑がってんの解んねぇのか!!」
「何でそんな事君に言われなきゃなんないんだよ。君には関係ないだろ」
「ハッ…大有りだな。好きな人が困ってんだ。口だって挟みたくなるぜ」
………ん?
俺、今何つった?
「ええええぇええ??!!」
「えええええぇえ??!!」
宍戸さんと俺の声が被った。
言って俺も吃驚したぜ。
でも声に出したらやっぱりそうなのか、という納得も同時にあった。
「お前…やっぱり宍戸さん狙いだったんだな!!」
「るっせー悪ぃか!」
「悪い!!宍戸さんは俺のだ!!」
「だーれがそんなの決めたって?!」
「俺と宍戸さんは氷帝最強のダブルスなんです!!もはや一心同体だ!!!」
「それはテニスだけの話だろうが!!そんなもんに縛られなきゃやってらんねぇなら、
高校入ってダブルスコンビ解消したら終わりじゃねぇか!」
「お前ら落ち着け!!」
宍戸さんの怒鳴り声で気付けば、商店街の皆さんの注目を一身に浴びていた。
「ったく…行くぞ!!」
宍戸さんは真っ赤な顔をして俺と鳳の手を引っ張って、一旦その場から離れた。
畜生…鳳の所為だ!!
宍戸さんにこんな恥ずかしい思いさせやがって。
SIDE-S
こいつら一体何考えてやがるんだ?!
往来で…あんな大声で!!
くそっ…激ダサだぜ…
「宍戸さん!!」
「なっ…何だよ」
ひと気のない通りまでやってくると、突然長太郎が足を止めた。
「俺と神尾、どっちが好きなんですかっっ」
「はぁ?!」
「俺も聞きたいっス!!」
「お前まで何言い出すんだ!!」
こいつら…暑さで脳ミソやられてんじゃねぇのか?!
「お…落ち着けよ…よく見ろ俺は男だ」
「そんなの重々承知ですよ宍戸さんっ」
「関係ねぇ!!俺はあんたが好きだ!!!」
二人の声が綺麗にかぶって、勢いが増す。
「宍戸さんっ!」
「宍戸さんっっ!!」
とにかく真剣なのは解った。
けど俺にとっては二人とも可愛い後輩で、それ以上でもそれ以下でもねぇ。
ただ今後の付き合いの中で可能性があるとすれば……
「神尾だ」
言った途端長太郎の顔がみるみる蒼褪め、砂みてぇに腰から崩れ落ちていった。
逆に血色のよくなった神尾が飛び上がって喜んでいる。
「まっ…待て!!!そういう意味じゃねぇ!!話は最後まで聞け!」
ダメだ二人とも天と地ぐらい差はあるけど、どっちも舞い上がってこっちの話聞いちゃいねぇ。
「うわぁあああああ宍戸さんどうしてですか?!何で俺じゃダメなんですか?!」
「あぁ?!お前と俺じゃ価値観全然違うじゃねぇか」
お上品なスープに浮かんだ水餃子と、ニンニクの匂いのプンプンしたパリッパリの焼餃子の差だ。
俺はやっぱりどう努力したって、あの上流階級の食事にはついていけねぇ。
学校の行き帰りは送り迎えの車より、ゆっくり歩いて帰りながら下らねぇ話がしてぇ。
静まり返ったホールでのクラッシック鑑賞より、すし詰めになったライブハウスでの大暴れがいい。
ボーリングもビリヤードもしたいし、ゲーセンでも遊びたい。
カラオケにだって行きたい。
そう考えた時、俺の隣りにいるのは長太郎じゃなくて神尾だった。
口に出したら何となく納得がいった気がした。
俺は神尾が好きなのだ。
ただこいつらの言う好きとは違う。
あくまで男友達としてだ。
「俺は諦めませんから!!絶対絶対振り向かせてみせますから!!」
そう言い残して走り去った長太郎の背中がいつもより小さく見えた。
そして隣で満面の笑みを浮かべる神尾が、全身全霊で喜びのオーラを放つ子犬に見えてきた…
………何で俺はこう変な奴に懐かれるんだ?
〜終〜
○神尾×宍戸やけど若干バーサス気味
○(神尾VS鳳)×宍戸ですな
○宍戸さんがラーメン屋に寄り道して、後輩に奢ってあげる、というシチュエーション萌
○これ地味にベカミサイドストーリーとかがある
○でもベカミは立派な王道なのでここには置けない
○お互い金持ちに好かれて困って意気投合みたいな
○庶民な宍戸さんは絶対神尾と馬が合う
○時々不動峰の連中と一緒にいて、俺もこの学校がよかったとかうっかり考えてしまう
○宍戸さんはスーパーボーイズラヴ要員
○男らしい受萌
○好かれて一番困るのは太郎だろうな、宍戸さん
○太郎は部活中常に宍戸さんのモモタに釘付け
○そんな太郎から守るべく鳳は奔走
○しかしトンビに油揚げ攫われた感満載で神尾が浮上
○鳳がアホですみません
○鳳はひったくりが何か知りません(金持ちだから)
○何でそんな事をするのか理解できてない
○神尾をひったくりと勘違いしてるのはある意味間違いではない
○そしてここの鳳は忍足が嫌い
○神宍はありえないなりに、俺的にありなので、次はもっと突飛なCPを予定
○自分でもえぇえええ?!って思うCPを書きたい