*赤柳、跡×?前提のお話です
心の中にある、己の決まりを破る事など簡単なものだ。
何を思ったか俺を好きだと言う赤也と付き合い始めて数ヶ月。
俺が勝手に好きなだけなんで柳さんを束縛なんてできない。
なんて可愛くない事を言う赤也なんて知らない。
赤也はいつだって素直で従順でいなければ。
そして幼い子供のように我侭の限りを尽くして無理を言えばいい。
なのに心にも無い嘘をつくから俺も勝手にさせてもらう事にした。
「おい。何ニヤついてやがる。俺様が目の前にいるってのに…」
「俺が何を考えようとお前には関係あるまい」
目前に迫る整った顔を押し返すように額に手を置けば、不機嫌を隠さない表情が返ってくる。
これだ。
俺が求めるものは。
背中をゾクゾクと快感が走るのが解った。
無理に隠された感情なんて必要ない。
全て曝け出された業【ごう】こそが俺を奮い立たせる。
だから俺は赤也を選んだ。
いつもの赤也を見ていれば、それは容易に想像がついていた。
いつものあの傍若無人で自信満々な赤也のまま、俺を奪ってくれる事を期待していた。
だが相手は思った以上に俺を好きでいるらしい。
好きだからこそ嫌われたくないなんて、そんなつまらない事を言う赤也なんていらない。
俺の気持ちなどお構いなしに、全部攫っていけばよいものを。
だから俺はもう一人も選んでしまった。
跡部がどういうつもりで誘ってきたのかなんて、そんなものはどうでもいい。
興味も無いし聞きたくも無い。
ただ俺は赤也に欠けてしまったものを求めているだけなのだから。
「面白くねぇな」
「目の前に自分がいる時ぐらいは俺を見ろと?無理な相談だな」
「何?」
「お互い様だろう?」
浮気に関してはイーブン。
跡部が他の誰を好いているのか、俺は知っている。
あえて本人の口から聞いた事はない。
だが俺の情報網を甘くみないで欲しいものだ。
それにしても。
好きでもない相手と体の関係を持つなんて、何て不誠実なのだろう。
だがそれすら俺を奮い立たせるのだ。
背徳と業に挟まれベッドに入る度、堪らない快感が俺を襲う。
「こんな事…てめぇの飼い犬に知られたら後が怖いぜ」
「本気で言っているのか?」
「ククッ…まさか。俺様を誰だと思ってやがる」
そうだ。
そうでなければ。
浮気如きで怖がられていては、こいつを選んだ意味がない。
俺はゆっくりと唇に笑みを乗せ、相手のそれに重ねた。
途端に骨が軋むほど抱きすくめられる。
この跡部という男。
考えているようで、その実単純明快。
今も服に隠れるか否か、際どい場所に痕をつけている。
まったく、何を考えているのだ。
もしこれが赤也にバレれば、と考え、それだけで絶頂に達しそうになる。
烈火の如く怒るだろうか。
ショックを受け悲しむだろうか。
呆れて離れていく、は初めから選択肢にない。
赤也の心情から考えてありえないだろう。
いずれにせよ、その後が真価だ。
偽り無い本気のあいつを見たい。
しかし、そうすれば今のこの関係も終わり。
だからこそ、上手く心のラインを引いておかなければ。
油断すれば目の前の人物に食い殺されてしまう。
溺れてしまっては元も子もない。
互いに自制して、駆け引きの繰り返し。
本当の事を言えば、どちらも手放したくない。
だがそんな事をしていれば、いつかどちらも失う事になりかねない。
この俺がそんな失態を犯すわけにはいかないだろう。
「余計な事考えてんじゃねぇよ」
「そう言うのなら他所事など考えられないようにしてみろ」
「言ってくれるじゃねぇの…後悔すんじゃねぇぞ」
目の前の青い瞳に射抜かれながら、ここにない赤い目を思い出す。
体を這う指は間違いなく跡部の物なのに。
このギリギリの、薄氷を踏むような関係。
嗚呼もっと続けたい。
しかし早く終わらせたい。
しかし、この快感からは逃れられない。
もっと、もっと。
貪欲な心が求める場所はどこなのだろう。
そして行き着く先に見える景色はどんな絶景なのだろう。
今ここに無い心を抱え、俺は再び唇に笑みを乗せた。
〜終〜
○たまにはこんな柳もオツなもの
○アンケートよりリクエストを戴き書いてみましたが…いかがでしょうか
○跡部の相手は誰でもよいです
○個人的には神尾を推したいです
○お互い年下の恋人抱えて浮気、みたいな
○快楽主義者柳って萌だと思う
○猛獣使い柳ってこんなイメージ
○次は続・幸滝か立海×氷帝で頑張ります